目次
働き方改革の促進や、多くの企業で副業が可能になってきていることなどをきっかけに、テレワークをはじめとした新しいワークスタイルが広がってきました。なかでも注目を集めるのが、ワーケーション。リゾート地や観光地で休暇を取りながら、必要に応じて仕事もするという働き方です。
本記事では、新しい働き方であるワーケーションの概要や、働く人と企業それぞれのメリット・デメリット、利用する場合の注意点などについて解説します。
ワーケーションとは?
「ワーケーション(Workcation)」とは、「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせた造語です。観光地やリゾート地、温泉地など、普段のオフィスから離れた場所で余暇・休暇を楽しみながら働くスタイルのことを指します。
観光庁では、ワーケーションを以下のように定義しています。
Work(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語。テレワーク等を活用し、普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしつつ、自分の時間も過ごすことです。
(引用:観光庁「『新たな旅のスタイル』ワーケーション&ブレジャー」)
ワーケーションは、2000年代にアメリカで始まった働き方といわれています。日本では、2020年以降の新型コロナウイルス感染拡大により、企業にテレワークの強化が要請され、出社せずに働くことが求められるようになりました。こうした社会状況のなか、「新たな旅のスタイル」としてワーケーションなどを推進する方針が政府によって示され、「ワーケーション」という言葉が注目を集めることとなりました。
「福岡県八女市の「新しい働き方」を推進!部署を跨いだメンバーでワーケーションに参加してみた」の記事では、ワーケーションの体験レポートを発信しているので、ぜひご覧ください。
また、近年では「ブレジャー」という言葉も使われています。こちらも、「Business(ビジネス)」と「Leisure(レジャー)」を組み合わせた造語です。出張などでオフィスから離れた場所へ仕事に行く際に、現地の滞在期間を延長し、出張先や近隣の観光地・リゾート地で余暇を楽しむことをいいます。
ワーケーションの4つのスタイル
(観光庁「『新たな旅のスタイル』ワーケーション&ブレジャー」を元に作成)
観光庁では、ワーケーションを「休暇を主体とするか」「仕事を主体とするか」によって、「休暇型」と「業務型」の2つに大きく分類しています。さらに、休暇型を「福利厚生型」とし、業務型を「地域課題解決型」「合宿型」「サテライトオフィス型」の3つに分類しており、計4つのワーケーションタイプとして整理しています。
タイプ | 特徴 | |
---|---|---|
休暇型 | 福利厚生型 |
|
業務型 | 地域課題解決型 |
|
合宿型 |
| |
サテライトオフィス型 |
| |
プレジャー(業務型) |
|
ワーケーションとテレワークのちがい
ワーケーションでは、インターネットが使える環境のもと、パソコンやモバイル機器を活用することで、時間や場所の制約を最小限にとどめて働きます。これは、テレワークでも同じです。
しかし、ワーケーションとテレワークのちがいは、「働く場所」と「目的」にあります。テレワークは通常、自宅やサテライトオフィスなどの場所を事前に申請して働いたり、指定された場所で仕事をしたりします。一方、ワーケーションは、休暇で出かけたリゾート地のホテルや帰省した実家などで仕事をします。
さらに、テレワークでは、通勤などの移動時間の削減による生産性の向上、オフィス運営にかかるコストの削減、ワークライフバランスの理想化などが目的として挙げられます。ワーケーションにも同じような効果が見込める部分はありますが、ワーケーションの場合は、あくまで休暇を取得しやすくし、リフレッシュをはかるといったことが目的となります。
ワーケーションのメリット
では、ワーケーションには、どのようなメリットがあるのでしょうか。導入によって得られる従業員側、企業側それぞれのメリットについて紹介します。
従業員側のメリット
従業員側のメリットには、仕事の生産性や作業効率の向上が期待できる点や、ストレスの軽減につながる点などが挙げられます。
●生産性や作業効率の向上に期待できる
ワーケーションでは、「集中力が途切れることが少なく、生産性が上がる」といった声をよく聞きます。これは、短時間に限定的に仕事することで、かえって業務を効率的にこなせるようになるためであるとされています。
●ストレスの軽減につながる
仕事以外の時間は、リゾートならではの環境でゆったり過ごせることから、心身の疲れを癒すことができ、ストレスを軽減してくれます。また、家族と一緒に過ごす時間をつくりやすいことから、いつも以上に家族間のコミュニケーションをはかることができるため、ワークライフバランスを実現することにもつながります。
●新たなアイデアやイノベーションの創出につながる
日常生活とかけ離れた場所に身を置くということは、思考においても目に見えない刺激を与えてくれます。こうした普段の生活では得がたい刺激や出会いがきっかけとなり、新たなアイデアやイノベーションの創出をもたらすことが期待できます。
企業側のメリット
ワーケーションの導入は、企業側にとっても有給休暇の取得を促す効果や、採用活動の際に企業の新たな魅力をアピールすることで人材確保が見込めるなどのメリットがあります。以下で、くわしく解説します。
●有給休暇の取得促進
企業にとって、従業員の有給休暇の取得促進は、大きな課題のひとつです。
令和3年11月に厚生労働省が発表した資料によると、令和2年の有給取得率は過去最高の56.6%を記録しています。しかし、政府は、2025(令和7)年までに、有給休暇の取得率を70%にする数値目標をかかげていることから、取得率増加に向けたさらなる促進が求められています。
日本では、欧米諸国でいうところの「バカンス」のような長期休暇を取得する習慣が根づいていません。また、職場を一定期間離れることに対して、罪悪感のようなものを感じるといった側面もあるため、有給休暇を取得しやすい職場環境づくりが必要となっています。
ワーケーションを導入することは、給を取得しやすい環境づくりに役立ちます。休暇中の旅先などで「必要最低限の業務をこなしつつ、休暇を楽しむ」といった、柔軟な対応ができるのであれば、職場を離れる罪悪感を抱くこともなくなります。結果的には、長期休暇を取ろうといったモチベーションにもつながるでしょう。
(参照:厚生労働省『令和3年就労条件総合調査の概況』『働き方・休み方改善ポータルサイト』)
●人材流出の抑制につながる
ワーケーションは、自由度の高い働き方を実現するための手段のひとつです。自律的な働き方をしたいと望む優秀な人材にとっては、大いに魅力的でしょう。従業員の心身の健康維持や、ワークライフバランスの改善に向けた取り組みでもあることから、働き方改革に積極的に取り組んでいるというアピールにもつながります。このように、さまざまな面から従業員の満足度を高めることができ、優秀な人材が流出するのを防ぐ効果も見込めます。
●地域との関係性構築につながる
ワーケーションは、導入企業を受け入れる地域にとっても、平日の旅行需要の創出のほか、交流人口・関係人口の増加、関連事業の活性化および雇用創出などのメリットが期待できます。
また、こうした地域との関係性を構築することは、企業にとってもメリットがあります。働く環境の多様化につながり、パンデミックや地震などの災害に対応した「BCP対策」の強化にもつながります。
BCP(Business Continuity Plan)とは、日本語で「事業継続計画」といいます。さまざまなリスクに対して、包括的に「事業を継続するには何をするべきなのか」をあらかじめ考えておくというものです。ワーケーションでは、企業が地方に拠点を持つなどして関係を築いておくことで、万が一の災害時にも地方にあるサテライトオフィスを利用して事業を継続することができるようになります。
ワーケーションのデメリット
ワーケーションには、「休暇」と「仕事」が密接であることや遠隔地であるがゆえのデメリットも存在します。
従業員側のデメリット
従業員側のデメリットには、通勤時間などがなくなることにより、公私を区別しづらくなるという点のほか、現場に出向くことが必須である業務の場合は、そもそもワーケーションを取り入れにくいというものがあります。
●オン・オフの切り替えが難しい
休暇中に旅先で仕事するため、日程や勤務時間などをきっちり決めたうえで仕事をしないと、「仕事」と「休暇」の線引きが曖昧になってしまいます。その結果、「休暇なのにリフレッシュできず、仕事も効率よく行えない」というような悪影響を、双方に与えかねないといった事態も予想されます。
●できる仕事に制限がある
ワーケーションは、パソコンやタブレットなどを活用して遠隔で業務を行うことが基本です。そのため、「現場ありき」の接客業や製造業などにおいては、できる業務に限りがあり、導入しづらい面があります。
企業側のデメリット
企業側のデメリットには、情報漏えいに関するリスクや会社の労務管理制度の見直しなどが挙げられます。
●情報漏えいのリスクがある
会社ではない場所で仕事をする場合は、会社所有もしくは個人所有のパソコンやタブレットを使用します。そこには当然、機器の紛失、盗難、破損などといったリスクがともないます。紛失・盗難の場合は、単に機器がなくなるだけではなく、情報漏えいにもつながりかねません。また、パソコンやタブレットなどを使用する際は、一般的な通信環境で使用することがほとんどでしょう。通信環境のセキュリティーが弱いものだった場合、ネットワーク上からも機密情報が漏れてしまう可能性もあります。
企業は、そうしたリスクに対応するため、従業員向けのセキュリティー教育の実施や、会社以外で仕事をする際は使用する回線を制限するなどの措置が必要になります。
●労務管理制度の見直しが必要
従来の勤務形態とは異なるため、労務管理制度の見直しが必要になります。まず課題となるのは、労働時間の管理です。遠隔地にいる社員の業務に従事した時間を把握・管理するのは、難しいものです。そこで、ネットワーク上で使える勤怠管理システムを利用するなど、何かしらの方法を考える必要があります。
また、ワーケーション中の社員の安全面も、配慮する必要があります。旅行中やリゾート地での事故による怪我や事故については、明確に業務上の災害であれば労災保険の対象となります。しかし、その線引きが曖昧な事案についてはどうするのか、休暇中の気の緩みで怪我をした場合などにおいても、考慮する必要があります。
▼労災について知りたい方はこちら
ワーケーション利用の際の注意点
注意点①:費用負担を明確にする
ワーケーションにかかる費用には、交通費、宿泊費、通信費、施設利用費、観光費、食費などが挙げられます。これらの費用のうち、どこまでを会社負担とし、どこまでを従業員負担にするのか、その割合などについては、あらかじめ決めておく必要があります。
ワーケーションの交通費や宿泊費は、「業務の遂行に必要か否か」によって、扱いが異なる傾向です。たとえば、「交通費と宿泊費は従業員負担とし、通信費や旅先でのワークスペースの利用料金などは会社負担とする」「仕事が主体のワーケーション場合は、テレワーク同様の考え方で宿泊費の一部を会社負担にする」など、ワーケーションのタイプごとに費用負担の割合を変えるようなケースがあります。
いずれにしても、「ワーケーション先で会社指定の宿泊先・ワークスペースを利用した場合に限り、会社が費用負担する」「企業の費用負担には、上限金額を設定する」など、ワーケーションを利用する前にはまず、会社側にルールを明確化してもらうことが必要になります。
注意点②:セキュリティー対策を徹底する
個人情報の取り扱い、モバイル機器の管理については、自社のセキュリティーガイドラインがあればそれに準じるようにしましょう。ただし、セキュリティに関するガイドラインを設けていない会社もあります。その場合は、 ワーケーションを利用する前に、会社にセキュリティについての取り決めなどを確認するとよいでしょう。
また、ワーケーション先で利用する通信ネットワーク環境については、事前に確認するのもよいです。不特定多数が利用するような公共Wi-Fiなど、セキュリティー対策が不十分なネットワークへのアクセスは、避けるようにしましょう。事前に現地の通信環境を確認するのはもちろん、持参するモバイル機器にウイルスソフトを導入するなどの対策を講じることも必要です。
注意点③:コミュニケーション不足にならないよう対策する
ワーケーションのほか、テレワークにおいても課題となるのは、従業員同士、あるいは顧客・取引先とのコミュニケーションが不足しがちになることです。ワーケーションといえども、仕事を円滑に進めるためのコミュニケーションは欠かせません。普段の仕事で活用しているチャットツール、WEBミーティングツール、あるいは状況に合わせたコミュニケーションツールを駆使し、 密な連携・連絡がとれるようにしておきましょう。
ただし、ワーケーションは、あくまで休暇がベースの制度です。いつ連絡が入るかわからない状況は、休暇であるのにリラックスできなくなってしまうため、従業員にとって好ましくありません。ワーケーションを利用する前に、「事前に申請のあった勤務時間のなかでやりとりを済ませる」「出席が必要な会議は前もって告知する」など、休暇のクオリティーを落とすことのないようなルールを会社と相談しておく必要もあります。
ワーケーションの利用事例
実際にワーケーションを取り入れた会社の事例を紹介します。
日本航空株式会社(JAL)
日本航空(JAL)は、2017年にワーケーション制度を導入しました。JALでは、デスクワークなどの間接部門社員の有給休暇取得率が低いという課題を抱えていたため、取得率向上を目的に導入を決めたという背景があります。これは、休暇中にリゾート地や観光地で仕事を行う「福利厚生型」のワーケーションで、従来から実施していたテレワーク規定をベースに、業務時間よりも休暇時間を多くするなどの施策を取り入れました。
導入した2017年度の利用者は11人でしたが、2020年度には延べ400人以上が利用し、間接部門社員約2,000人のうち2割以上が利用したという結果になりました。また、ワーケーション利用者に行ったアンケートでは、「モチベーションがアップした」といった前向きな回答が得られています。
JALが取り入れるワーケーションの形態は多様化してきており、近年では滞在先で集中討議をする「合宿型」のほか、ビール醸造体験、農業体験など、ワーケーションとアクティビティを融合したスタイルなどにも取り組んでいます。従業員はこうした取り組みを通して自己成長を促し、働き方・休み方を自分自身でコントロールする力を養っているようです。
(参照:観光庁「『新たな旅のスタイル』ワーケーション&プレジャー(導入事例 日本航空株式会社)」)
株式会社セールスフォース・ドットコム
顧客情報管理(CRM)大手の「セールスフォース・ドットコム」の日本法人である「株式会社セールスフォース・ドットコム」は、2015年に和歌山県白浜町にサテライトオフィス「Salesforce Village」を開所しました。
和歌山県白浜町では2000年以降、ICT(情報通信技術)企業の誘致を積極的に進めていましたが、その転機となったのがセールスフォース・ドットコムの白浜町進出。
現在は、東京オフィスで勤務する内勤営業の一部が、白浜オフィスで仕事をしています。業務内容は東京にいるときと変わらず、「働く場所が白浜になっただけ」といいます。同社ではもともと、顧客情報をはじめとした社内情報のほぼすべてを自社専用のクラウドで管理しており、インターネット環境さえあればどこででも仕事ができるという仕事環境が整っていました。そのため、遠隔地である白浜での業務もスムーズに実施できているようです。
また、白浜オフィスは、東京オフィスに比べて生産性が20%高く、かつ残業時間も短い傾向にあるといいます。通勤時間も都心に比べて圧倒的に短く、通勤のストレスがないことから仕事に集中できるため、ライフワークバランスも良好であるとのことです。
(参照:観光庁「『新たな旅のスタイル』ワーケーション&プレジャー(導入事例 株式会社セールスフォース・ドットコム)」)
株式会社タイミーでもワーケーションを積極的に活用しています。ぜひご覧ください。
まとめ
働き方改革の促進などにより、新しい働き方が広がる中、ワーケーションは注目を集めている働き方のひとつです。
ワーケーションを取り入れる際は、企業と従業員の双方にとってよりよい働き方・休み方になるよう、会社が仕組みを整えたり、従業員がルールを守ったりすることが大切です。
- タイミーラボ編集部
タイミーラボは、株式会社タイミーによるオウンドメディアです。
https://lab.timee.co.jp/