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有給休暇は「正社員だけの特権」と思っていませんか?
有給休暇は正社員だけではなく、パートやアルバイトなどの短時間労働者でも、一定条件を満たせば取得することができます。
有給休暇を取得することは、労働者の権利です。身も心もリフレッシュして、楽しく仕事を続けるために、知っておきたい有給休暇の基本や取得方法についてご紹介します。
有給休暇とは
有給休暇は、正式には「年次有給休暇」といいます。
正社員やパート・アルバイトなどの区別がなく、一定条件を満たしたすべての労働者に対し、「年単位で付与される有給の休暇(=賃金が減額されない休み)」のことを指します。
有給休暇は、以下のように「労働基準法第39条」で定められている労働者の権利です。
(年次有給休暇)
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
(引用元:労働基準法第39条)
つまり、働き始めてから6ヵ月以上が経過し、その期間中の全労働日(雇用契約で定められた出勤日)の8割以上を出勤していた場合には、「年10日間」の有給休暇が付与されるのです。
<補足>有給休暇の年5日の取得義務って?
有給休暇を取ることが法律で定められているにもかかわらず、これまでの有給休暇の取得率は「49.4%(2016年度)」と低い水準となっており、所得率向上を図ることが急務となっていました。
そこで、働き方改革の一環として2019年4月に労働基準法が改正され、「年5日の有給休暇の確実な取得」が義務づけられることになりました。これにより有給取得率は、過去最高の「56.6%(2021年度)」となったものの、政府は「2025年までに有給取得率70%」という目標を掲げているため、今後も有給休暇を取りやすい環境整備が進んでいくはずです。
(参照:厚生労働省「就労条件総合調査」)
パート・アルバイトの有給休暇の取得条件
では、年次有給休暇が付与される条件について、くわしく見ていきましょう。年次有給休暇は、雇用契約を結んだすべての労働者であれば、パート・アルバイトでも取得することができます。ただし、以下2つの条件を満たす必要があります。
- 雇われた日から6ヵ月継続して働いていること
パートやアルバイトであっても、契約が更新されて継続勤務となっている場合は、この条件に当てはまります。 - ①の勤務期間のうち、雇用契約で定められた全労働日の8割以上を出勤していること
業務上の怪我や病気によって休んでいる期間、法律上認められた育児・介護休業、慶弔休暇などの取得期間は、出勤したものとみなされます。
上記2つの条件を満たす労働者であれば、誰でも有給が取得できます。
パート・アルバイトの有給休暇は何日もらえる?
有給休暇が何日取得できるかについては、労働基準法第39条に定められています。
事業者によっては、この法律が定める日数以外に福利厚生の一環として特別休暇などを設けている場合もありますが、ここでは労働基準法によって定められた年間の有給休暇日数について解説します。
パート・アルバイトの場合は勤務時間・日数により、2つのパターンによって付与される有給休暇日が異なります。
①週5回以上、または週30時間以上働いている場合
1週間の所定労働日数が5日以上、または1週間の所定労働時間が30時間以上の場合、先述した8割以上出勤の条件を満たせば、入社した日から6ヵ月経過した日に「10日間」の有給休暇が付与されます。その1年後、所定労働時間・日数の8割以上を働いた条件を満たせば、「11日間」の有給休暇が付与されます。
たとえば、4月1日が入社日だとすると、6ヵ月後の10月1日には「年10日分」の有給休暇が付与、翌年の10月1日には「年11日分」の有給休暇が付与されます。その後は下図のように、勤続年数に応じて有給日数が増え、6年6ヵ月以降は、毎年「20日分」が付与されます。
(参照:厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」)
②週4日以下、または週30時間未満で働いている場合
一方、1週間の所定労働日数が4日以下、または1週間の所定労働時間が30時間未満の場合は、下図のように、勤務日数に比例した日数が付与されます。
たとえば、4月1日から週3日の勤務を続けていた場合、6ヵ月後の10月1日には「年5日分」、翌年の10月1日には「年6日分」の有給休暇が付与されます。その後は下図のように、勤続年数に応じて有給日数が増え、6年6ヵ月以降は毎年「11日分」が付与されます。
(※)週以外の期間によって労働日数が定められている場合
(参照:厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」)
なお、パートやアルバイトも有給休暇が10日以上付与される場合には、「年5日の有給休暇取得」が義務づけられますので注意が必要です。
有給取得時の給与の計算方法
有給取得時の給与の計算方法について解説していきます。
月給制の場合は、有給休暇を取得しても通常勤務として扱われるため、計算せずともわかりやすいですが、パートやアルバイトが有給休暇を取った場合は、どのような計算方式になるのでしょうか。
計算方式については、次に紹介する3つが認められています。どの方式を採用しているかについては事業所ごとに異なるため、気になる人は勤め先に確認しましょう。
①通常どおり働いた場合の賃金が支払われるケース
シフト制など、ある程度の勤務時間や賃金が固定されている場合は、一般的にこの方法になります。有給休暇を取得した日には、休まずに働いていた場合に得られた通常の賃金が支払われることになります。
給与形態 | 計算方法 |
---|---|
日給の場合 | そのままの既定の賃金 |
時給の場合 | その日に勤務するはずだった「所定労働時間×時給」 |
週給の場合 | 週給÷その週の所定労働日数 |
月給の場合 | 月給÷その月の所定労働日数 |
②過去3ヵ月の平均賃金が支払われるケース
月によって勤務日数に大きな差がある場合は、この方法が採用されることがあります。平均賃金は、以下の計算式で算出される金額になります。
(過去3ヵ月分の賃金総額)÷(その期間の総日数)=平均賃金 |
では、以下のようなAさんの勤務状況を例に、具体的に平均賃金を計算してみましょう。
<Aさんの勤務状況> |
Aさんの平均賃金は、以下のようになります。
(950円×40日×5時間)÷91日=2,088円
しかし、勤務日数の少ないパートやアルバイトの場合、平均賃金がどうしても少なくなってしまうケースが考えられます。しかし、そのような場合でも最低賃金が保証されており、以下の計算式で算出された最低保証額と比較して金額が高いほうが支払われる決まりになっています。
(過去3ヵ月分の賃金総額)÷(その期間中の勤務日数)×0.6(60%)=最低保証額 |
上記のAさんの最低保証額を計算すると、以下のようになります。
(950円×40日×5時間)÷40日×0.6(60%)=2,850円
平均賃金と比較すると最低保証額の方が上回っているため、Aさんが有給を取る際には1日2,850円が支払われることになります。
③健康保険の標準報酬日額で算出するケース
職場の健康保険に加入している場合は、この方法を採用することがあります。健康保険料を決める際に基準となる標準報酬月額をベースに、以下の計算式で標準報酬日額を算出し、支払われることになります。
(標準報酬月額)÷30=標準報酬日額 |
標準報酬月額は、全国健康保険協会の都道府県ごとの保険料額を基準としており、個人の給与額によって50段階に分けられています。保険料額ごとの基準に関してくわしく知りたい方は、全国健康保険協会「都道府県毎の保険料額表」をご確認ください。
有給休暇に関するよくある質問
Q.有給休暇に有効期限はある?
A.有給休暇は、法律上、付与された日から2年間の有効期限が設けられています。もし1年のあいだに有給休暇を使い切れなかったら、翌年に繰り越すことが可能です。しかし、翌年にも使用しきれなかった場合は、翌々年(3年目)に繰り越すことができずに消滅してしまいますので注意しましょう。
なお、退職時に有給休暇が残っていても、消滅してしまうため、退職前に取得ようにするのがおすすめです。
Q.有給休暇の取得方法は?
A.法律上は、前述した有給休暇の取得条件をクリアしていれば、誰でも有給を取ることができます。通常は、前日までに願い出ればよいですが、状況によっては仕事に支障が出ないようにしたうえで、できるだけ周囲に迷惑をかけずに休むほうが、心置きなく休暇を楽しむことができるでしょう。
直属の上司などには、できる限り早めに「私用のため有給休暇を取りたい」といった旨を申し出ておきましょう。また、職場によっては、所定の申請書類の提出が必要なケースもあるため、早めに確認しておくとよいでしょう。
Q.勤め先に有給休暇の取得理由を聞かれたら?
A.たとえ勤め先から有給休暇の取得理由について聞かれたとしても、答える義務はありません。「私用のため」と、伝えるだけで十分です。
また前述のように、勤め先によっては有給休暇を取得するために所定の申請書類を提出する必要がある場合もあります。書類に取得理由を記載する欄があることもありますが、その際も「私用のため」と記述すれば、問題ありません。
Q.有給取得を断られた場合は?
A.有給休暇の取得は、法律で定められた労働者の権利です。有給休暇の取得の条件を満たしているにもかかわらず、万が一断わられるようなことがあったら、まずは断られた理由を聞いてみましょう。その理由が「繁忙期や人手不足が原因で業務を回せなくなる」といったことであった場合は、有給を取る時期をずらすほか、早めに相談するなどといった配慮も必要です。
基本的に事業者は、有給休暇の申請を拒否することはできないとされていますが、もしも繁忙期に多くのスタッフがまとめて有給休暇を取った場合、業務に甚大な支障が生じてしまいます。これを避けるため、事業者側には「時季変更の権利」が認められています。
「時季変更の権利」とは、有給休暇を申請された事業主が、労働者に対して休暇の時期をずらしてもらうなどのお願いができる権利です。「時季変更権」を悪用し、「いつまで経っても有給申請を許可してくれない」といったことがあれば問題ですが、そうでなければ今後も気持ちよく仕事を続けていくために、繁忙期をずらしたり、職場の仲間と休みが重ならないよう調整したりしながら、休暇申請することをおすすめします。
Q.有給休暇は買い取りできる?
A.有給休暇の「買い取り」は、基本的にはできません。しかしながら、有効期限中にどうしても使い切ることができない、退職によって消滅してしまうなどの際に、例外として買い取ってもらえることもあります。これは、事業所によって対応が異なり、厳密には法律で定められている有給休暇数よりも多く付与されている場合に限られるなどの条件があるため、職場に相談してみるとよいでしょう。
まとめ
パートやアルバイトの場合、勤務時間・日数が短いため、有給休暇を取得するのに気が引けたり、そもそも有給休暇を取得できることを知らなかったりで、「取ったことがない」という人も多いのではないでしょうか。
本記事を参考に、有給休暇の取得は労働者の当然の権利であることを理解し、積極的に活用していきましょう。
- 監修者
- 社会保険労務士法人スマイング 特定社会保険労務士 成澤 紀美
社会保険労務士法人スマイング、代表社員。IT業界に精通した社会保健労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。顧問先企業の約8割がIT企業関連。2018年より、クラウドサービスを活用した人事労務業務の効率化のサポートや、クラウドサービス導入時の悩み・疑問の解決を行う「教えて!クラウド先生®️(商標登録済み)」を展開。
https://www.it-jinji.net/