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昨今の新型コロナウイルス感染症流行の影響により、勤務先の飲食店が休業になるなど、収入が減少してしまった人も多いのではないでしょうか。しかし、こうしたケースでは、休業手当の支給対象となる可能性があります。
そもそも休業手当とはどのような制度なのでしょうか?
本記事では、休業手当の内容や手当の対象、支給金額の計算方法などについて解説します。
休業手当とは
「休業手当」とは、雇用主の都合で従業員を休ませると判断した場合、休ませているあいだの賃金を雇用者側が支払う制度です。
労働基準法第26条では、休業手当について以下のように記しています。
【労働基準法第26条(休業手当)】
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
「休業」とは、労働者に働く意思があるにもかかわらず、働くことができない状況を指します。つまり休業手当とは、休業中の従業員の賃金を保証し、平均賃金の60%以上を支払ってくれる制度なのです。
アルバイトやパートも休業手当の対象になる?
休業手当の対象となるのは、正社員のほかアルバイトやパート、派遣社員など、雇用形態に関係なく「全従業員」です。
ただし、派遣社員の場合は、休業手当の申請先が勤務先ではなく派遣会社となります。また内定者に関しては、労働契約を結んでいれば、休業手当の対象になります。
休業手当と休業補償の違い
「休業補償」とは、業務中または通勤中の怪我や病気によって働くことが困難となった従業員に対して、平均賃金の60%を支払う労働保険制度です。
休業補償の対象となるのは、いわゆる「労災」の認定を受けた場合です。労災認定を受けた従業員は、仕事を休んで4日目から休業補償の支給が開始されます。
労災についてはこちら▼
アルバイトやパートに休業手当が支給される条件
休業手当が支給される条件は、労働基準法第26条にあるように、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するケースに限られます。「使用者の責に帰すべき事由」とは、雇用主側の理由で労働者を休業させた場合を指します。
ここからは、どのような休業が休業手当の支給条件に該当するのか、該当するケースと該当しないケースに分けて紹介します。
休業手当が支給されるケース
休業手当は、雇用主側の都合で休業となり、賃金を得ることができない従業員を対象とした制度です。具体的には以下のようなケースで、休業手当が支給されます。
ケース①:週5日勤務の契約で働いていたが、業績悪化の影響で「来週から週3日でよい」と通達された
本人には働く意欲があり、勤務先側の都合で出勤回数が減らされているため、勤務できなかった日数分の休業手当が支給されます。また、勤務日数だけではなく、週5日8時間労働で勤務していた人が、会社の都合により「週5日4時間労働でよい」と言われ、勤務時間を減らされた場合も同様です。
ケース②:会社の都合で通常1日の勤務だったところを午前中だけ働き、午後は退勤するようにと指示された
1日のうち一部だけ休業となった場合でも、会社の都合で指示された休業の場合は、休業手当の対象に該当します。
ケース③:派遣社員が派遣先の会社都合で休業した
休業手当の対象となります。ただし、休業手当の申請は、派遣元の会社が行います。
休業手当が支給されないケース
以下のようなケースでは、休業手当が支給されないので、注意しましょう。
ケース①:大雨や台風などの自然災害によって出勤できなくなった
自然災害は不可抗力であるため、会社側の都合とはいえず、休業手当の支給対象となりません。
ケース②:仕事中の病気や怪我などにより、働けなくなった
この場合は「休業補償」の対象となるため、休業手当は支給対象外です。
ケース③:産前・産後の休業
休業手当の対象となりません。「労働基準法」により産前休業は任意で、産後休業は一定期間の休業が義務になりますが、賃金の補填を雇用主側に義務づけるものではありません。ただし、会社の福利厚生によっては、産前・産後にまつわる賃金が発生する場合もあります。また、社会保険に加入している場合は、協会けんぽや健康保険組合に申請すれば「出産手当金」が支給されます。
ケース④:育児・介護による休業
休業手当の対象となりません。「育児・介護休業法」により休業することは認められるものの、賃金の補償を雇用主側に義務づけるものではありません。ただし、会社独自の福利厚生を利用する、もしくは雇用保険から「育児休業給付金」「介護休業給付金」を受けとることで、賃金を補てんすることができます。
休業手当はいくら支給される?
休業手当は、「労働基準法第26条」にある通り、平均賃金の60%以上の賃金を支給する決まりとなっています。そのため、まずは平均賃金を算出しなければなりません。以下では、休業手当の算出方法のほか、日給・時給の場合の計算方法についても解説していきます。
休業手当の算出方法
まずは、平均賃金を算出します。平均賃金とは、労働基準法で定められている手当や補償を算定する際の基準となるもので、計算方法は以下のとおりです。
平均賃金=休業日以前の3ヵ月間で支払われた賃金総額÷計算した3ヵ月間の暦日数 |
賃金総額とは、基本給のほか通勤手当、皆勤手当、時間外手当、有給分の賃金を含みます。
ただし、以下の3つは例外となるので注意してください。
- 結婚手当、傷病手当、加療見舞金、退職金
- 3ヵ月以上の間隔で支払われる賃金(半期ごとに支払われる賞与など)
- 労働協約で締結していない現物支給
また、平均賃金を算出する3ヵ月のあいだに以下の期間が含まれている場合は、対象日数分を引いて計算します。
- 就労中の病気や怪我で休業した期間
- 会社の責任により休業した期間
- 産前、産後休暇
- 育児、介護休暇
- 試用期間
たとえば、休業日を8月5日~8月17日の7日間とし、賃金締め日が毎月10日とすると、平均賃金は以下のようになります。
直前3ヵ月 | 歴日数 | 基本給 | 通勤手当 | 残業手当 |
---|---|---|---|---|
6月(6/11~7/10) | 30日 | 23万円 | 5,000円 | 0円 |
5月(5/11~6/10) | 31日 | 23万円 | 5,000円 | 2万円 |
4月(4/11~5/10) | 30日 | 23万円 | 5,000円 | 1万5,000円 |
合計 | 91日 | 69万円 | 1万5,000円 | 3万5,000円 |
上記のように整理したら、平均賃金を算出します。
平均賃金=(69万円+1万5,000円+3万5,000円)÷91日=8,131円 ※銭未満の端数は切り捨て |
平均賃金をもとに、実際に支給される休業手当の金額を算出します。計算方法は、以下の通りです。
休業手当の支給額=平均賃金×60%×休業日数 |
上記の例で計算すると、休業手当の支給額は、以下にようになります。
休業手当の支給額=8,131円×60%×7日間=3万4,150円 |
このように、少なくとも3万4,150円以上は、休業手当が支払われることになります。
(参照:厚生労働省 山形労働局「休業手当の計算方法」)
アルバイトやパートに多い、日給制や時給制、出来高制の場合はどうなる?
日給制、時給制、出来高制で勤務している場合は勤務時間が短いことも多く、上記の計算式では支給額に不利益が出る可能性があります。そのような場合は、平均賃金のほかに「最低保証額」を算出し、金額の高いほうで休業手当の支給額を決定します。
休業手当の最低保障額=休業日以前の直近3ヵ月の賃金総額÷働いた日数×60% |
平均賃金と最低保障額を算出したうえで、金額の高いほうを適用し、休業手当を計算しましょう。
勤務先の都合でアルバイトやパートを早退した場合は?
客足が伸びない、お願いできる仕事がないなどの勤務先側の都合により、「今日は早退してほしい」と言われ、アルバイトやパートを早退するケースもあるでしょう。その場合、1日の賃金が平均賃金の60%に満たないことがあります。
平均賃金の60%に満たない場合は、 それに相当する金額と実際の労働時間に対する金額の差額が支給されます。早退したことで賃金が減ってしまっても、差額が支給されることで平均賃金の60%は賃金が確保される仕組みです。
新型コロナウイルス感染症に関わる休業はどうなる?
新型コロナウイルス感染症対策の影響で、業界全体で休業したり、多くの労働者が休業したりといったことが相次ぎました。昨今の新型コロナウイルス感染症関連で休業した場合の労働者への休業手当は、支給されるケースと支給されないケースが複雑です。
新型コロナウイルスに感染して休業したケース
新型コロナウイルスに感染して仕事を休むことになった(休業した)場合は、「使用者の責に帰すべき事由」には該当しないため、休業手当の支給対象外となります。ただし、傷病手当の対象に当てはまるため、社会保険に加入している場合は協会けんぽや健康保険組合に申請しましょう。
新型コロナウイルス感染症による「使用者の責に帰すべき事由」に該当する例は、 感染が疑われる従業員を雇用主側が自主的に判断して休業させる場合に限ります。
以下の3つについても、「使用者の責に帰すべき事由」に該当せず、休業手当の対象外であるため、注意しましょう。
- 感染症法にもとづき、都道府県知事が要請した休業
- 緊急事態宣言の対象地域で休業要請を受けた休業もしくは入居している施設全体の閉鎖にともなう休業
- 取引先が操業停止したことで通常業務が困難となり、かつほかに通常業務に必要な備品がそろう取引先がない ※取引先はほかにもあるが、休業する場合は休業手当支給の対象となる
濃厚接触者など感染が疑われて休業したケース
従業員が濃厚接触者に該当した場合や感染が疑われる場合は、出勤停止となることから、その従業員は休業手当の支給対象となります。
基本的に 濃厚接触者に対する出勤の有無は、雇用主側で判断されます。勤務先から「出勤しないでください」と言われた場合は、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するため、休業手当の対象となります。
休業手当以外の給付金・助成金制度もある
休業手当の支給対象に該当しなかった場合でも、新型コロナウイルス感染症に関する支援金や助成金があります。主な支援金や助成金は、以下の2つです。
●新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金
新型コロナウイルス感染症やまん延防止等重点措置の影響で休業となった従業員で、休業手当に該当しなかった人への支援金・給付金です。支援金は、以下のような計算方法で算出できます。
休業前の1日当たりの平均賃金×80%×(各月の日数-就労日数または従業員の判断で休んだ日数) |
ただし、1日当たりの平均賃金の上限は8,355円と定められている点に注意しましょう。時短営業で勤務時間が短縮された場合や、週5日勤務のところを週3日勤務に減少した場合も、支援金・給付金の対象となります。
申請は、従業員本人のほか雇用主経由でも可能です。申請後に審査を行い通過すると、およそ2週間で支援金・給付金が支給されます。
申請期限は、2022(令和4)年12月31日までです。ただし、この期限は、2022(令和4)年7月~9月に休業した方が対象となります。くわしくは、厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」をご確認ください。
●雇用調整助成金
雇用調整助成金は、新型コロナウイルス感染症の影響で事業を縮小した企業が従業員の雇用を維持するために、休業を行うことで発生した休業手当を一部負担する助成金のことです。雇用調整助成金の対象となる事業主は、以下のとおりです。
- 新型コロナウイルス感染症の影響により、事業縮小、業績悪化が見られる
- 最近1ヵ月間の売上や生産量が前年の同じ月と比較して5%以上減少している
- 労使間の協定にもとづき休業などを実施、休業手当を払っている
支給額の上限は、原則一人当たり1日につき9,000円です。申請先は、事業所が所在している都道府県労働局またはハローワークで手続きが可能です。また、対象の期間は2022(令和4)年9月30日までとなります。くわしくは、厚生労働省「雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)」をご確認ください。
休業手当についてのよくある質問
ここからは、休業手当に関するよくある2つの質問について、回答していきます。
Q.休業手当はだれが申請するの?
休業手当の取り扱いは、基本的には雇用主(会社側)が行います。従業員が自ら何か申請する必要はありません。ただし、休業する際は、雇用主側と従業員のあいたで、いつからいつまで休業するのか、話し合いが行われることがあります。また、会社によっては、従業員に記入してもらうための所定の申請書を設けていることもあるので、そのような場合は協力するようにしましょう。
Q.休業手当はいつ支給される?
休業手当は、労働基準法第11条で定める賃金に該当するため、原則、所定の賃金支払日(給料日)に支払われます。
また、新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者となり、休業したにもかかわらず、会社が休業手当を支給してくれないなどの場合は、先に解説した「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」の申請を自分で行いましょう。この制度は、従業員が申請できる給付金制度です。
まとめ
休業手当とは、会社側の都合で従業員が休業することになり、賃金が得られなくなった場合に支給される手当のことです。たとえば、会社の業績悪化による勤務時間の減少や、出勤停止になった全従業員が対象(派遣社員の場合は、勤務先ではなく派遣会社から休業手当が支給)です。
休業手当を受けとれるかどうかわからない人は、本記事で紹介した支給の条件を参考にしてください。
- 監修者
- 社会保険労務士法人スマイング 特定社会保険労務士 成澤 紀美
社会保険労務士法人スマイング、代表社員。IT業界に精通した社会保健労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。顧問先企業の約8割がIT企業関連。2018年より、クラウドサービスを活用した人事労務業務の効率化のサポートや、クラウドサービス導入時の悩み・疑問の解決を行う「教えて!クラウド先生®️(商標登録済み)」を展開。
https://www.it-jinji.net/