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「一度、今の仕事を離れてみたい」
そんな選択肢が頭をよぎったことはありませんか?忙しい日々の中で、「自分の時間がほしい」「何か新しいことをしてみたい」と感じる瞬間がある人も多いのではないでしょうか。
最近、あえて仕事を休む期間をとる「キャリアブレイク」という考え方が注目されています。その目的は、休息や旅、ライフイベント、勉強や資格取得、心と向き合う時間など、人によって様々。
このキャリアブレイクを日本に広める活動を行うのが、一般社団法人キャリアブレイク研究所の代表理事、北野貴大さんです。パートナーのキャリアブレイクをきっかけに研究所を立ち上げ、著書『仕事のモヤモヤに効くキャリアブレイクという選択肢』(2024年 KADOKAWA )も執筆されています。
今回、北野さんにお話を伺い、キャリアブレイクとはどんな考え方なのか、そして「お休み期間」をどのように過ごせばいいのか、さらにそのスキマ時間にタイミーを活用することで広がる可能性についてもお聞きしました。
- ■プロフィール
- 北野貴大(きたのたかひろ)
一般社団法人キャリアブレイク研究所 代表。大阪公立大学大学院 経営学研究科 特別研究員。大阪市立大学(建築学)を卒業し、新卒でJR西日本グループに入社。「ルクア大阪」をはじめとするデパートプロデューサーとして従事。2022年に退職をし一般社団法人を設立。一時的な離職休職によって人生と社会を見つめ直す「キャリアブレイク」を文化にする活動を行い、社会リズムのアップデートを目指す。著書に、『仕事のモヤモヤに効くキャリアブレイクという選択肢』(KADOKAWA)、『キャリアブレイク ー手放すことはブランクではないー』(千倉書房)。Xアカウント:https://x.com/kitanothiro
キャリアブレイクは「人生の転機」つくるスキマ時間
——「前向きな離職・休職」といわれているキャリアブレイクですが、どのような考え方なのか基本的なところから教えていただけますか?
キャリアブレイクは、キャリアの一時的な中断を肯定的に捉える考え方です。簡単にいうと、離職や休職をした際に、焦ることなく自分にとって必要な時間を豊かな気持ちで過ごしたり、新しい挑戦に向けた準備をしたりすることをいいます。
もともと欧州で生まれた考え方で、高校と大学の間に休暇を設ける「ギャップイヤー」や、長く働いた人に与えられる長期休暇「サバティカル休暇」などとも近い考え方です。
——休み方は人それぞれなんですよね?
そうですね。僕らが行った調査で「キャリアブレイク中にやっていたこと(よかったこと)」を聞いたところ、大きく4つに分類できました。
1つ目は「自分を整える」ためのキャリアブレイク。たとえば、家族とゆっくり過ごしたり、大切にしたい人や物事と向き合ったり、とにかく寝れるだけ寝たりと、心身の健康や人間関係を整えるために時間を使うことです。
2つ目は「自分を深める」ためのキャリアブレイク。旅などをして、自分が何を大事にしているのかを見つめ直す時間をつくる方も多くいます。ふとした景色や人との出会いを通じて、新しい気づきを得られるみたいです。
3つ目は「自分を広げる」ためのキャリアブレイク。キャリアスクールで新しいスキルを学んだり、大学に通い直したり、興味があったけれど手をつけられていなかったことに挑戦するような過ごし方です。
最後、4つ目は「自分を繋げる」ためのキャリアブレイク。たとえば、ボランティア活動をして社会と関わってみたり、趣味の小説や音楽を創作したり、自分のできることを活かしながら新しいつながりをつくる方もいます。
——キャリアブレイク研究所では、こうした情報を調査して広める活動をされているんですか?
それが活動のひとつの柱です。加えて、キャリアブレイク中の方のために居場所作りにも取り組んでいます。たとえば、お寺の住職とコラボした、無職なら無料でお酒が飲める「無職酒場」という取り組み。キャリアブレイク中の方が気軽につながれる機会を作っています。
他にも、最近公開した「ポータルサイト」の運営もしています。そこでは、キャリアブレイクの考え方や、それに共感してくれる企業や人とコラボしてつくったイベント、ツアーなどのコンテンツを紹介。セレクトショップのように、色々な情報を集めて、キャリアブレイクをより良く過ごすヒントを届けているんです。
——なぜ北野さんは、キャリアブレイクを広げようと思ったのですか?
パートナーが長期離職をしていた際に、休むことや復職することについて色々と考えたんですよ。
日本では、離職期間ってなんだかネガティブなことだと捉えられていますよね。でも、たとえば、家族の介護が必要で今の仕事を辞めざるを得なかった方に対して、「ポジティブに考えて」「すぐに働いたほうがいいよ」といわれても、そう簡単に前向きにはなれないと思います。「再就職が大変だと思うからさ」みたいな言葉が、呪いのように当人を苦しめてしまうこともある。
キャリアブレイクで、そうしたネガティブな感情を前向きなエネルギーに変えていく時間がとれれば、無職期間は「人生の転機を自分でつくるスキマ時間」になる。キャリアブレイクには、人生の可能性を何倍にも広げる面白さがあると感じて、広げていきたいと考えました。
年間150万人が実践!?社会に根付きつつあるキャリアブレイク
——日本でキャリアブレイクをしている方はどのくらいいるんでしょうか?
あくまでも概算ですが、年間約150万人ほどが1カ月以上の一次的な離職を経験している、という総務省のデータ(*)があります。最近というよりは、昔から何かしらの理由で休んでいる人はたくさんいました。人生の転機に「小さな無職期間」を挟むという実態は昔からあって、それに「キャリアブレイク」という名前がついた、という感じですね。
あとは、時代の価値観的にも受け入れられやすくなってきています。たとえば、高校の授業では、自分の興味関心に沿って学びを深める「探究学習」というカリキュラムが行われるようになりました。また、「SDGs」や「サステナビリティ」などの単語も一般的になり、一生懸命働き続けるより、休みを入れつつ持続的に働こうという考えも出てきました。
* 令和2年転職者実態調査の概況より
キャリアブレイクを「心のサステナビリティ」だと思っているんです。頑張れば頑張るほど、人は視野が狭くなってしまうことがありますよね。すると、自分のなかの「こうしなければならない」という正義が生まれて、それがまた争いを生むこともある。
僕は、そうした気持ちを一度デトックスする期間としても、「休むって必要だよね」と考える人たちが段々と増えてきているのを感じます。
——人生において重要なだけでなく、社会においても重要なのかもしれませんね。
まさにそうだと思います。能登の震災ボランティアに駆けつけていた人の多くが、キャリアブレイク中の人たちだったという話があるんです。毎日働いている人は、なかなかボランティアにいけませんから。
そう考えると、キャリアブレイクは「社会のバッファ(余白)」のような役割も果たしています。このバッファがなかったら困るジャンルや業界は、他にも色々とある。だから、個人のためにも社会のためにも、キャリアブレイクがもっと広がったらいいなと思います。
キャリアブレイク中のアルバイトで「お金を稼ぐ喜び」を知った人も
——キャリアブレイクにはいろいろな目的があると思いますが、どんなきっかけで始める人が多いのでしょうか?
「旅をしたい」とか「大学に通いたい」といった意図的な理由で始める人と、家族の病気など、状況的にやむを得ず始める人を分けるとしたら、半々くらいですね。
後者の、意図せず大変な状況に直面した人は、基本的には福祉の支援にお世話になることが多いと思います。しかしなかには、そうした状況にあっても「自分で人生の転機をつくりたい」「自分の力で前に進みたい」という前向きな考えを持つ人もいる。
こうした方々にとって、福祉の支援に頼るのは必ずしも自分の意向に合いません。なぜなら、福祉は「サポートしてもらう」仕組みなので、むしろその受け身の感覚に違和感を覚えるからです。そういう人たちは、自らキャリアブレイクを選択して、ポジティブにその時間を過ごそうとされるんですよ。
——実際にキャリアブレイクを体験した方の体験談を教えてもらいたいです。
語学留学に行ったとか、ボランティアをしたとか、自分のやりたかったことができたという話はもちろん多いです。ただ、その中で特に面白かったのは、「いつもと違う仕事をして対価を得る経験ができて良かった」という声ですね。
正社員として毎月の「給与」をもらっていた人が、キャリアブレイク中に農業をやって手渡しで時給を受け取った時に、「初めて自分の手でお金を稼いだ気がした」というんです。自分が役に立った対価として、「ありがとう」と言われながらお金を受け取る。その原始的な感覚が新鮮で嬉しかったそうです。
「スタッフみんなが職人で刺激を受けた」「仕事観や人生観に触れられた」と言っていました。
また、キャリアブレイク中にタイミーをやったという人もいました。僕が話を伺ったのは、タイミーを使って斎場で働いた人で、その方は講演会に行ったり映画を見たりしても、いろいろな刺激を受けられるけど、一緒に働く中でもらう刺激って特別なものがありますよね。休み期間だからこそ、そうしたいつもと違った経験ができるのも、キャリアブレイクの良さだと思います。
キャリアブレイク中のタイミーは、社会とつながるきっかけ
——キャリアブレイクをやってみたい人もいると思いますが、過ごし方のポイントはありますか?
一番大事なのは、「堂々とキャリアブレイクすること」です。休みたいなら休めばいいし、悩みたいなら悩めばいい。よく「一度仕事を休んだら、やる気がどんどん失われてしまうんじゃないか」とか、「家にずっといたら孤立してしまうんじゃないか」と不安を抱える人もいます。
でも、僕が見てきた限りでは、そういう心配はほとんど当たらないんです。むしろ、しっかり休んだ結果、何かしら「やりたいこと」が自然と出てくる人のほうが多いと思います。
ただ、安心して休んだり、自分と向き合ったりできる環境(北野さんはそれを「サードプレイス」と呼んでいる)をつくることは大切です。前職から近い場所や都心に住んでいたらどうしても焦ってしまうという人が、実家に帰ったり、思い切って移住してみたりするケースもありますね。
北野さんが立ち上げた「OKAYU HOTEL」では、無職期間中の人が集まり人生についてゆっくりと語り合う
居場所という意味でもそうですし、適度に社会と接続しておくのもいいと思います。やっぱり、堂々とキャリアブレイクをしている人でも、社会と接する機会がまったくなくなると不安になることもある。そこで、僕はタイミーを活用できると思うんです。
——どういうことでしょう?
社会とつながろうと思っても、普通のアルバイトでは面接で志望動機が聞かれたりして、一歩踏みだすハードルが高いですよね。でも、タイミーならそういうものがなく、1週間だけとか短期で働くこともできる。生活費の足しにもなりますしね。
それに、キャリアブレイク後に転職するのを考えても、色々な体験をしておくことはプラスに働くと思います。よく、不安にかられて急いで転職してしまう人がいるんですが、うまくいかないことも多いんです。「不安だから」という動機で転職活動をすると、冷静に会社を選べないし、「ブランクがありますね?」とか「次は続けられますか?」と、会社側から足元を見られることもあります。
でも、タイミーで少しだけ働いてみて、「自分はちゃんと人生の転機をつくろうとしていたんだ」と目的を思い出せると、それだけで気持ちが落ち着きます。それに、「農業を経験してこんなことを感じました」といった具体的なエピソードを語ることもできるようになるかもしれない。
結局、キャリアブレイクの期間を堂々と過ごして、「いい経験ができたんだな」と思える人は、社会に戻るときも堂々と戻れる。そんな人が転職活動でも良い結果を出しているのをよく見かけますね。
キャリアブレイクを“かっこいい文化”に
——たしかに、自分が過ごした時間に納得感や自信を持てるといいですし、そこにタイミーが役に立てたら嬉しいですね。最後に、北野さんの今後の目標や実現したい未来を教えてください。
現在、キャリアブレイク研究所のポータルサイトなどには月間で1万人ほどの方が訪れてくれていて、いくつかのメルマガの総会員も2000名近くいます。それに比べて、セレクトショップで提供できるコンテンツや居場所の選択肢がまだまだ少ないので、まずはそこを拡充することが当面の目標ですね。
それと、中長期的には「人の転機を支えたい」という思いに共感してくれる人や企業とのパートナーシップを増やしていきたいです。そして、その存在をどんどん「見える化」することで、「堂々とキャリアブレイクしていいんだよ」と言ってくれる場所がこんなにたくさんあるんだ、ということが伝われば、安心してキャリアブレイクを選べる人が増えると思います。
実は、メルマガを見てくれている方の4割は、まだ働いている人たちなんですよ。今すぐキャリアブレイクをしているわけではなくて、将来に向けて準備を始めている人たちです。そういう方々にも、役立つ情報や選択肢を届けられるようになりたいですね。
——新しい選択肢として多くの人に広がるといいですね。
そうなったら嬉しいですね。キャリアブレイクって、個人にとっても社会にとっても意義のある時間だと思いますが、何より僕は「かっこいい」と思うんです。
自分自身で人生の転機をつくって、自分の人生をデザインしていく。それって本当に素敵なことだと思います。キャリアブレイクが「かっこいい文化」として広がっていってくれたら嬉しいですね。
- タイミーラボ編集部
タイミーラボは、株式会社タイミーによるオウンドメディアです。
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