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以前よりは「転職」が身近になった昨今。
それでも、古くからある「同じ会社で最低3年は勤めるべき」などのステレオタイプは、まだまだ根強く残っており、仕事をする人たちにとって「始める」ことよりも「辞める」ことへのハードルのほうが、まだまだ高い印象です。
そこで今回は、2023年12月に、20代のうちに6回転職した経験をまとめた『転職ばっかりうまくなる』を出版したフリーランスのライターで作家のひらいめぐみさんにインタビュー。
【ひらいさんの職歴】 1社目:コンビニ店員・アパレル倉庫での商品管理業務 2社目:大手人材会社での営業 3社目:アパレルベンチャーでのWebマーケティング 4社目:書店員 5社目:商業施設の広報 6社目:お菓子のスタートアップの自社メディア運営・編集・ライター 現在:フリーランスのライター・作家 |
「圧倒的成長をしたくない」「キャリアプランを考えることが苦手」と話すひらいさんに、これまでの経験を経て、たどり着いた理想の働き方についてお伺いしました。学生時代から1社目~2社目のときに住んでいた家のすぐ近くで、思い出のある井の頭公園を歩きながら、思いを話していただきます。
コンゴの紛争問題に興味を持ち、就職せず。20代にして6回の転職を経験
――ひらいさんは、20代のうちに6回の転職を経験されているそうですね。
はい。就職活動をしていなかったので、最初は大学時代から働いていたコンビニでのアルバイトを半年ぐらい続けていました。その後一度辞めて、アパレルブランドの倉庫でのアルバイトを1年ほど。そこからは、営業、Webマーケティング、書店スタッフ、商業施設の事務局・広報、編集・ライターの仕事を経験しました。
――就職活動をしなかった理由はあるのでしょうか?
学生のときから「大好きなメロンパンを通じて、コンゴ民主共和国の紛争問題を伝える」を掲げて「メロンパンフェス」というイベントを主催しており、その活動を優先するため、就職をしないという選択を取りました。
――なるほど。では、「メロンパンフェス」の活動を続けながら倉庫でのアルバイトを続けたのですね。
ただ、実際にやってみると、気持ち的にも体力的にも厳しくなってきました。イベントは自分で費用を賄い、規模が大きくなるにつれてかかる経費も増えていったので、まとまったお金を作らなきゃいけなくて。それで、一度やめたコンビニで再びアルバイトを始めたんです。
そのときは、午前6時から8時はコンビニのバイトで、8時45分から18時までは倉庫のバイト。帰ったらイベントの準備、というような生活をしていました。イベント前の1か月間は寝る時間が1〜2時間しかなくて、そんなことをしていたら血便が出るようになってしまったんです。それで、ひとまずは自分の健康を優先して、就職することに決めました。
社風や働き方と、自分とのチューニングが合わず、転職を続ける日々
――そこから、たくさんの転職を経験するわけですね。どういった理由で転職を決めてきたのですか?
たとえば、アパレルのWebマーケティング職(3社目)に就いていたときは、働き方としては合っていたんですけど、横文字がいっぱい出てきたり、「ひらいさんは今後、どういうキャリアを築いていきたいのか」と聞かれたりするようなベンチャーの気質が自分と合いませんでした。最初は「そういうふうにしなきゃ」と合わせていたのですが、正直「将来こうなりたい、なんてない」と思ってしまって。
――「この仕事は自分に合っているな」と思えるような仕事とはなかなか巡り合えなかったんですね。
でも、その次に働いた本屋の仕事(4社目)は「社風も仕事内容も合っていそうだ」と思いました。会社を辞める2週間前に、たまたまSNSで新しい本屋ができることを知って。調べたらアルバイトの求人が出てきたので、応募したんです。
そこは、飲食の喫茶スペースと、本が置いてあるスペースと2ヶ所あって。喫茶のフードの提供の仕事、受付系やレジの仕事、本の棚を整理する仕事の3つを1日の中でいくつかやることができたので楽しかったですね。
――それでも、転職しているんですよね。なぜ、楽しかったお仕事を辞めることにしたのでしょう?
このときに住んでいたのが正社員時代に借りた部屋で、家賃が8万2000円だったんです。でも、本屋の仕事は手取り15万円ぐらい。収入的に厳しかったんですよね。それに、立ち仕事だったからか、体調を崩すことが増えて、出勤している間に病院に行くこともありました。点滴を打って帰ってきて、また働くみたいな。なので、体調を優先したいし、金銭的にも余裕がないといった理由で、また正社員として働こうと思ったんです。そのタイミングで、新しくオープンする商業施設の求人を見つけて、転職しました。
――素朴な疑問ですが、これまで働いてきて「ベンチャーの気質が合わない」と気づいたのにも関わらず、新しくオープンする本屋さんや商業施設など、ある意味ベンチャーマインドが求められる場所に就職を決めた理由はなぜですか?
本屋さんに関しては、全員が同じスタートラインで、自分だけじゃなくて他の人もわからないという状況が一緒なら楽しめそうだなと思って入った記憶があります。商業施設は、自分がまずお客さんとして行ってみたいなと思えたからです。
2社目の人材紹介の営業をやっていたときに、自分がよくわかってない商材を売ることへの戸惑いがすごく大きくて「自分はサービスに共感したり、心が動かなかったらダメだな」って思ったこともあって。だから、ベンチャーを選んで転職しているという意識はあまりありませんでしたね。たまたま選考を受けたのが新しいことに挑戦したり、ベンチャーマインドが求められたりするところだったのかなと。
――ここまで、コンビニと倉庫でのアルバイト、人材紹介の営業、アパレルのWebマーケティング、本屋、商業施設とさまざまな仕事をしてきたと思うのですが、仕事を選ぶ際の軸は何でしたか?
商業施設の広報の仕事(5社目)あたりまでは「自分のために仕事を選んでる」というよりも、「メロンパンフェス」の活動を第一に考えて選んだ場所でした。ただ、転職を何度繰り返しても状況が好転していないことに気づいたとき、「自分のことがままなってないのに、人のためにイベントを開催している場合ではない」と思うようになりました。
それで、次は「自分のこうしたい」を優先しようと思って、たどり着いたのが文章を書く仕事だったんですよね。
好きなことを仕事にしたはずなのに、しんどくなってしまった
――「編集・ライター」という仕事は、これまでの職歴から考えると少し突拍子もないように感じますが、どういった経緯で転職したんですか?
商業施設で働いていたときに、プライベートのnote(※)を多くの人に読んでもらえたことがあって、すごく嬉しかったんです。「文章を書くことをこれからも続けられたらいいな」と思うようになり、文章を書くこと自体を仕事にしなくてもいいから、プライベートでも文章が書けるように時間に余裕がある仕事、定時で帰れたり、残業があんまりなかったりする仕事を探しはじめました。
※noteは、note株式会社が提供するクリエイターが文章や画像、音声、動画を投稿して、ユーザーがそのコンテンツを楽しんで応援できるメディアプラットフォーム
――結果的に編集・ライターのお仕事についたのは、なぜだったのでしょう?
お菓子を扱うITベンチャーの営業アシスタントの仕事を受けたのですが、面接の前に電話がかかってきて「ひらいさんのこれまでの経験からだと、アシスタントの仕事はちょっと違う気がするんですよね」って言われたんです。
「あぁ、ダメだったか。ちょうど良い条件だったのにな」と思っていたところ、一度面談をしてくれることになり、「実はまだ求人を出してないんだけど、Webメディアを会社で立ち上げようと思っています。noteも読ませていただいておもしろかったので、興味ありませんか」って言ってもらえて。それで、職業としてのライターを未経験のまま、いきなり文章の仕事に就くことになったんです。
――すごい! 自分のやりたいことを仕事にできたんですね。
Webメディアを立ち上げて、記事を作るための企画を考えたり、取材したりするのはすごく楽しかったです。ほかにもメルマガを書いたり、お菓子の商品説明を書いたり。会社の人は私の文章を気に入ってくれて、「いつもの感じで!」「ひらい節で」など私らしい文章を求めてくれました。人間関係も良好で、電話をとる業務もないし、勤務時間の融通も利く。びっくりするくらい働きやすかったです。
――そこを辞めてしまったのは、なぜだったんでしょう?
楽しいことをしてる気持ちはありつつ、だんだん気持ちのアンバランスさを感じるようになっていったんです。そのまま働いていたら、だんだん胃の調子も悪くなってしまって。病院で検査しても原因がわからなくて、その話を上司にしたら「たぶん会社(仕事)に対してのストレスが原因だろうから、辞めない限りは良くならないんじゃないかと思います」と言われ、たしかにそうだなと納得して辞めることにしました。なので、最後の会社は辞めたくないけど、結果的に辞める選択をとりました。
――気持ちのアンバランスとは、具体的にどのようなことでしょう?
みんなが言ってくれる文章の「いつもの感じ」が何を指しているのかわからず、自分らしさを出した文章を書くことに疲弊してしまいました。また、お菓子も好きだったはずなのに、仕事で「食べたくないときでも食べる」ことがしんどくなってしまいました。好きなことを仕事にしているはずなのに、なぜなんだろうと苦しかったです。
――好きなことを仕事にしているはずなのに……。
当時は「書くこと」自体も嫌になっていたと思います。そのときにふと「好きなことを好きなままでいるために、心のバランスをとらなきゃいけないんだ」と気づいたんですよね。
会社員で文章の仕事をする限り、業務量やスケジュールを自分でコントロールするのは難しい。それが書くことを苦しくさせている要因だったんです。だから自分でバランスがとれるように、フリーランスになることにしました。
文章を書くためには、書かない時間も大切だという気づき
――現在は、フリーランスとして働きながら、倉庫のアルバイトもしているそうですね。
はい。フリーランスになったら文章以外の仕事もしたいと思っていて。これまでの仕事の中で楽しかった仕事について考えてみたら、ふと倉庫のアルバイトのことを思い出したんです。私、倉庫で働いている時間が好きだったんですよね。
それから、川。
――川? どういうことでしょう?
最初の倉庫のバイトのときに近くに川があり、天気のいい日は外で川を眺めながらお昼ごはんを食べていました。川は常に流れていて、さっきまで目の前にあった水が消え、別の水が上流から流れてくる様子がおもしろいんです。それに、川の近くでは堂々と「なにもしない」でゆったりと過ごすことができる。川がそばにあると、それだけで安心できるんですよね。今は川が近くにある倉庫でときどきバイトをしながら、執筆の仕事をしています。
――今は、ご自身の本も出版もされて、フリーランスのライターとしてもご活躍されていて、順調かと思うのですが、ライター業一本で行こうとは考えていないのでしょうか?
前職を辞めるときに、心のバランスをとる上でも、書くためにも、書かない時間が必要だということを実感しました。なので、なんとかして週に2〜3回は文章とはまったく関係のない仕事をしながら、文章を書く生活をするのが理想なんです。
一般的に本業とは別にアルバイトをしているというと「本業の稼ぎだけでは生活できないのでは?」と思われがちですが、そうではなく書かない仕事をすることも自分にとって健康的に働くには必要なことなので。
――なるほど。では、今の働き方が理想的なんですね。
はい。フリーランスになる当初から、「書く仕事」も「書かない仕事」も両立できるような働き方にしようと思って始めたので、なるべく続けたいですね。それに固定収入があるという意味では、気持ち的にも収入的にも基盤があってすごくいいなと思っています。
――好きなことで仕事を続けるために、意識していることはありますか?
毎日8時間寝て、仕事をしない時間も取れるような生活が理想的だなと思います。今も、睡眠時間は取れているのですが、朝が遅いので、その分なんとなく毎日を伸ばしている感覚があって。メリハリをちゃんとつけられたらいいですね。
キャリアプランは「わからないからおもしろい」
――お話を聞いていて「次が決まってから辞める」「3年いなきゃ」などのステレオタイプにまったく縛られていないように感じました。まだまだ、そこに縛られている方も多いと思うのですが、そこへの抵抗がない理由はなぜでしょうか?
辞めることへの抵抗よりも、嫌なことを続けることへの抵抗の方が大きいからかもしれないですね。
――次が決まっていないうちになかなか行動に移せないと考える人も一定数いる印象ですが、ライフプランやキャリアプランを考えることはありますか?
いや、ないですね。ライフプランとか、ライフステージとか、キャリアプランとかって聞くと「なんか人生ゲームみたいだな」って思っちゃうんです。就職したら昇給を目指す、結婚したら妊娠、出産、家を買う、みたいな。「そんな人生でいいのかな」「わからないのがおもしろいのに、わかっちゃったらつまんなくない?」って思ってしまうんですよ。
だから、私の場合は未来を決めちゃうほうが、つまらなくてどうしようと思うかもしれないです(笑)。
――なるほど。たしかに「こうやって決めたから」という理由で、予定していなかった方向へ進むのを恐れる人もいますもんね。
はい。やりたいことがはっきりと決まっているわけではないのですが、やりたくないことはある程度決まっていて。そのやりたくないことを避けて次に行くイメージなんですよね。
――会社でキャリアプランについて聞かれて違和感を抱いていたという理由がなんとなくわかったような気がします。
もともと考えていなかったので聞かれても困っていました。どうやったらキャリアプランを考えずに社会になじめるんだろうって。だから、フリーランスになって、今それを聞かれなくなったという意味では、開放感がありますね。「世間的にこれがベスト」と言われている働き方ではなく、自分で全部決めていいと今は思えているから、自分にとって理想の働き方ができているんだと思います。
――『転職ばっかりうまくなる』に出てきた、「職業を極めるのではなく自分自身を極める」という言葉からも、同じような印象を受けます。
自分が何をしたいか、何をしたくないかということを、自分軸で選び続けることが「自分自身を極めること」だと思うんです。仕事って人生のわりと大きい部分を占めるじゃないですか。それを世間とか世間体でコントロールしたり、世間に合わせて決めることは、自分自身の気持ちを蔑ろにしてしまっているということ。誰かの評価で左右される仕事そのものを極めるというよりも、自分が自分らしくいられるよう突き詰めていくことで、自然と自分らしい働き方に辿り着くような気がしています。
(取材・執筆:於ありさ、撮影:塩川雄也、編集:プレスラボ)
- タイミーラボ編集部
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