私のタイミー生活

「人とのつながりが、心を癒す」── フジカワハルカさんが創る、“達磨善哉”という名のコミュニティ

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「人とのつながりが、心を癒す」── フジカワハルカさんが創る、“達磨善哉”という名のコミュニティ

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優しくて柔らかな小豆の甘みが身体に溶け込んでいくおやつ、ぜんざい。その温かさも相まってか、ふとしたときに食べてみると、身体だけではなく心までやんわりと癒やされていくような、素朴な癒やしを感じられるように思います。

そんなぜんざいが持つ“和ませ力”を活かし、「日々働く人たちに癒やしを届けたい」という思いで不定期営業のぜんざいのお店「達磨善哉(だるまぜんざい)」を生み出した人がいます。

彼女の名前は、フジカワハルカさん。

2021年3月に大学を卒業し、編集者として社会人のキャリアをスタートさせたフジカワさん。文筆業に携わりつつ、ライティングコミュニティの運営などを行う傍らで、社会人2年目であった2022年からは、個人の探究として“帰り道にぜんざい贈る屋”をコンセプトに掲げたぜんざいのお店を創り出しました。

会社員として働きながら、ゼロからお店を立ち上げるという多大なる挑戦に取り組むフジカワさんですが、その背景にあった思いはどういったものだったのでしょうか。その意思や人生の創り方から見えてきたのは、フジカワさんご自身の中にある、ひたむきで実直な“居場所探し”への思いでした。

リモートワークで気づいた、「人とのつながり」への思い

── まずは「達磨善哉」について、どのようなお店なのか改めて教えていただけますか?

「達磨善哉」について

「達磨善哉」は、私と母の二人で始めたぜんざいのお店です。コンセプトは、“帰り道にぜんざい贈る屋”。現在は不定期で営業しており、これまでを振り返ると隔週木曜日の夜にだとか、土日だとか、徐々に形を変えながら続けてきました。直近では、表参道の複合文化施設「SPIRAL」での3日間のポップアップストアも開催しました。

── 「達磨善哉」を始めたのは社会人2年目の頃と伺いました。社会人として日々を歩むだけでも大変な時期かと思いますが、どういった経緯で始めることに……?

大きなきっかけは、会社員として働くようになってまもなく体調を崩してしまったことでした。というのも、私が新卒で入社した会社は、コロナ禍以前からフルリモート・フルフレックスで働く環境の会社だったんです。これは当時としては珍しい働き方で、自由度が高い反面、自己管理が求められるんですよね。

そういう環境を選んだのはもちろん自分自身の意思で、私自身が比較的おっとりしたペースの人間だということもあり、自分のペースで働ける環境が理想的だなと思ってのことでした。ただ、1年目から2年目の春ぐらいまで、仕事に夢中で取り組みながらも、悩んだときに誰かに相談しながら仕事を進めることがなかなか上手にできなくて……。

フルリモートの環境だと、同僚や上司とのコミュニケーションが取りづらく、困ったときに気軽に相談できることが簡単じゃないんです。母と住んでいたのでそばには家族もいましたが、仕事の悩みはあまり話していなかったので、結局一人で抱え込んでしまいました。

そんな気持ちのままいくつかのプロジェクトを抱えていたんですが、どれもうまくいかない時期があって。締め切りに追われたり、クライアントの要望に応えられなかったりで……でもストレスを発散する場所もなくて、「もうここから逃げたい」と思ってしまったんです。結果的に、突発性難聴になってしまいました。

── それは大変でしたね……。

その経験から、心身の健康の大切さを痛感しました。仕事も大切ですが、それ以上に自分自身を大切にしなければいけないと気づいたんです。また、人とのつながりの重要性も再認識しましたね。一人で抱え込まずに、誰かに相談できる環境を作ることも本当に大切なことなんだなって。

誰かに相談できる環境を作ることも本当に大切

── そこから「飲食店を立ち上げる」という発想はどのように生まれたんですか?

体調を崩してから、自分の過去を振り返る時間を持ったんです。そこで、学生時代に飲食店で働いていた経験を思い出して。「あの頃の感覚に戻りたいな」と思ったんですよね。

というのも、学生時代の飲食店での経験は、学生生活のなかでも特に充実した時間でしたし、なによりありのままの自分でいられて楽しかったんです。お客様に直接サービスを提供して、その場で反応をいただける。「おいしかったよ」「ありがとう」という言葉をいただけるのが、すごく嬉しかった。

文章に携わる仕事も好きなんですが、記事を書いて公開しても、読者の反応が目の前で見えるわけではない。なので、ふとしたときに「ちゃんと届いているのかな」って思うことが少なくなかったんです。ダイレクトにお客様の喜びを受け取れることの充足感って、すごく力になるんだなと再認識したのだと思います。

それで、まずは土日だけ飲食店で働き始めました。体調が完全に回復する前でしたが、むしろ働くこと、人と接することで元気をもらえると思ったので。実際、働いてみて、お客様からたくさんの元気をもらい、人と直接関わることで、心が癒されていくなあと実感しました。

── なるほど。そこから自分自身でお店を立ち上げる発想に至ったのはなぜでしょう? フジカワさんが得たかった喜びは、従業員として働くなかですでに受け取れているのではないかなとも思いました。

たしかにそうかもしれません。でも、バイトという立場だと自由にできないところも多かったんです。シフトの都合や、店のルールなど、制約がありますよね。自分自身でなにかをデザインしたい、自分の思いを形にしたいという気持ちが強くなって。それで、自分のお店を作ることに決めました。

── 数多ある料理のなかでも「ぜんざい」だったのはどうしてですか?

本当にいろいろなメニューを検討した結果、ふとたどり着いたんです。最初は、誰もが気軽に、日常的に食べてもらえるものがいいなという思いから、ドーナツやワッフルを候補に挙げていて、半年間ドーナツ屋で働いてみたり、おうちで何度も試作したりしました。でも、世の中にはおいしいドーナツ屋さんもワッフル屋さんも数えきれないほどあって、自分だからこそできるものではないんだよなあと。そんなとき、たまたま「かぼちゃのぜんざい」のレシピを見つけたんです。

そのレシピがどうにも気になって母に作ってもらったら、とてもおいしくて「これだ!」と思いました。ぜんざいって、あまり気軽に食べる機会がないじゃないですか。でも、実はとても奥が深くて、いろんなアレンジができる。そこから、いろんな味のぜんざいを作ってみようと、どんどんアイディアが湧いてきたんです。

どんどんアイディアが湧いてきたんです。人気メニューの「ばたた」はさつまいも餡をベースにしたぜんざい画像提供:フジカワさん(photo by 加藤壮真) 

あとは私自身が、昔からおしるこやぜんざいといった、いわゆる餡子のお菓子が大好きで。「達磨善哉」を始める何年か前にも、趣味で自動販売機のおしるこの食べ比べをしたことがあるくらい(笑)。でも、それら全部を比べても、やっぱり家で作るぜんざいの味には勝てないなと思っていました。その経験も、ぜんざいを選んだ理由の一つかもしれません。

小さな一歩から始まる、大きな変化

── 新卒2年目で本業以外の新しいことを始めるのには、勇気が必要だったのではないかと思います。フジカワさんの原動力はなんだったのでしょうか?

そうですね……。私の周りは社会人になってから体調を崩している人が多かったんです。学生時代の友人や、一緒に働いていたバイト仲間とか。そういう人たちに対して「この人たちを助けたい」「みんながもっと生きやすくなるにはどうしたらいいだろう」という思いは少なからずありましたね。自身の経験から、本業以外の場所で人と関わり合える環境や、居場所があると感じられるコミュニケーションを交わすことが、健やかに生きるためには必要なんじゃないかという思いもありました。

特に、リモートの環境で働いている人たちの多くは、人とのつながりが希薄になりがち。私自身がそうだったように、孤独を感じたり、ストレスを抱え込んでしまったりする人が多いんじゃないかと思ったんです。そういう人たちに、ほっと一息つける場所を提供したかった。

かつ、私が当時所属していた会社は、仕事と自分の探究を両立することを推奨する組織だったんです。みんな、仕事をしながら自分の好きなことを追求していて。そういう環境だったので、私もなにか自分らしい表現方法を模索したいなと思ったし、それなら「達磨善哉」を通して実現してみようと考えました。

── あえて「帰り道にぜんざい贈る屋」と掲げたのも、そういった意思があってこそなのでしょうか。

あえて「帰り道にぜんざい贈る屋」と掲げたのも、そういった意思があってこそなのでしょうか。

その通りです。「達磨善哉」はビジネスパーソンをターゲットにしているんですが、仕事で嫌なことがあったり、ストレスを感じたりしたとき、その日のうちに発散することが大事だと思っているんです。帰り道にふらっと「達磨善哉」に立ち寄って、ぜんざいを食べることで気持ちをリセットしてほしい。そんな思いを込めています。

「帰り道に」という言葉には、“仕事と家庭の間の大切な時間”という意味も込めています。仕事場でも家庭でもない、自分だけの時間。その時間に、ほっと一息つける場所を提供したくて。そして「贈る」という言葉には、単にぜんざいを売るのではなく、“癒しや安らぎを贈りたい”という思いを込めました。ぜんざいを通して、来てくれる人に心のこもったサービスを提供したいんです。

また、「ぜんざい」と「だるま」という言葉の組み合わせも、結果的には相性が良くて気に入っています。もともとぜんざいは漢字で書くと「善哉」で、「すばらしい」という意味を持つんです。その言葉の通り、来てくれる人の明日が今日よりも少しでもいい1日になりますように、と願いを込めながら営業しています。

来てくれる人の明日が今日よりも少しでもいい1日になりますように店名にもなっている「だるま」をモチーフとした湯飲み。
この湯飲みと出会ったことが、「達磨善哉」という名前が生まれるきっかけになったそう
画像提供:フジカワさん(photo by 加藤壮真) 

── 素敵な思いですね。お母様とお二人での創業だったのにはなにか理由があるのでしょうか?

母は飲食業の経験が豊富なんです。学生時代から合わせると8年くらいの経験があって、料理や接客など飲食店を営業していくための一定のスキルがあり、昔はイベントやフェスで飲食店を出店した経験もあって。なにより、母は料理が本当に上手なんですよね……。だから、もし店を一緒にやるのであれば、私ができないことを補ってくれる母しかいないな、と自然に思いました。

それに、私自身が母と一緒になにかをやりたいという思いがあったんです。「こういうのやりたいよね」とか「これ作ってみない?」とか、少しずつ話すことで、その意思を伝えて、だんだんと形になっていったというか。

── お二人の役割分担はどのようになっていますか?

親子仲良く営業中の一コマ親子仲良く営業中の一コマ

画像提供:フジカワさん 

基本的に営業中の接客は私がメインで対応しつつ、母はキッチン担当でぜんざいを作ってくれています。他にも仕込みやカップの調達などぜんざいに関わることは母が担当し、私はそれ以外のお店全体のデザイン、SNSなどの広報、出店場所とのやり取りや営業などを行っていますね。結構シンプルな役割分担に落ち着きました。

でも、最初のうちは「親子だからわかってくれるだろう」と勝手に任せてしまっていたことが多くて、喧嘩をすることもありました(笑)。お店をスタートして1年半が経ち、家族だからと甘えるのをやめて言葉で伝えあえるようになった今では、お互いの得意分野を理解し、尊重し合えるようになりました。

一杯のぜんざいが繋ぐ、人と人との絆

── 「達磨善哉」を始めてから、ご自身の心身への変化はありましたか?

それはもう、本当に変わりましたね。「達磨善哉」ができてから、自分を表現できる場所ができたなあと思うんです。今は会社でも、プライベートでも自分のありたい姿でいられていますが、「達磨善哉」を通してなにかを作ったり、人とコミュニケーションを取ったりすることで、より一層理想の自分に近づいたことで、自分のことが好きになり、生きやすくもなりました。

自分のことが好きになり、生きやすくもなりました。表参道の複合文化施設「SPIRAL」で開催したポップアップストアの様子画像提供:フジカワさん(photo by 加藤壮真) 

特に、お客様と直接コミュニケーションを取れることが、私にとっては大きな意味を持っています。「おいしかった」「ほっとした」という言葉をその場でいただける。それが、私にとってはすごく大きな励みなんです。達磨善哉の活動をすることや、そこでお客様と会話することが、私にとってはリラックスできるもので、ストレスがあってもうまく消化できるようになったのかな。

それに、複数の「居場所」を持つことで、心のバランスが取れるようになった気がします。仕事で行き詰まったときでも、「達磨善哉」があることで気持ちを切り替えられる。逆に、「達磨善哉」で得た経験や気づきを、仕事に活かすこともできています。

── お客様との会話で印象的なエピソードもありましたか?

そうですね。たくさんありますが、まず、常連のお客様ができたことがとても嬉しかったです。「隔週木曜日は達磨善哉の日だよ」って覚えていてくれる方がいたり、「ここは私の推しのお店です」って言ってくれる方もいました。そういう言葉をいただくたびに、本当に生み出してよかったなって思います。

本当に生み出してよかったなって思います。

それと、特に印象に残っているのは、休職していた友人が「達磨善哉」で手伝ってくれたことです。その友人にとっては「達磨善哉」で手伝うが、心のリハビリのような時間だったようで、少しでも身近な人の助けになれたのだなって思ったら嬉しくて。結果、その子は半年ほどで復職して、違う仕事に就いたんですが、今でもお客さんとして来てくれています。

また、お客様同士でコミュニティができていくのを見るのも嬉しいですね。常連のお客様同士で「こんにちは」って挨拶を交わしたり、お店の中で会話が弾んでいたり。私たちが会話の繋ぎ手をしなくても、お客様同士で話が盛り上がっているのを見ると、「これが本当に作りたかった景色だな」って感慨深くなるんです。

── 「達磨善哉」は人々の居場所になっているんですね、きっと。フジカワさんの思う「達磨善哉」のこれからって、どういうものでしょう?

立ち上げた当時の思いから寸分変わらず、誰かの居場所でありたいというのが一番強いです。そのために、実店舗をちゃんと構えたり、どこかのオフィスに常駐したり、定期的に出店したりといった安定性は模索していきたいなと。居場所を作り続けるための方法は考えていますが、「達磨善哉」をビジネスとして成長させたいとか、お金を稼ぎたいという思いは、あまりないんですよね。

なので、これからも「達磨善哉」に託したコンセプトや目標、「誰かの居場所になる」という思いを忘れずに、それに合わせて必要な選択をしていきたいなって考えています。私自身が飲食を通じて感じられた喜びを、ひとりでも多くのお客様に届けたい。そういう、純粋な思いが、今までもこれからも、私の原動力になってくれるので。

純粋な思いが、今までもこれからも、私の原動力になってくれるので。

(取材・執筆:詩乃、撮影:関口佳代、編集:プレスラボ)

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/media/タイミーラボ編集部
タイミーラボ編集部

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