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2011年の東日本大震災などの経験から、日本において大災害の発生は決して遠いものではなくなってきました。近年では、首都圏直下型地震や南海トラフ地震といった将来の大災害も予想されており、人々の防災意識は高まっています。
2024年10月23日、さいたま市と丸和運輸機関が締結している「大規模災害時における物資の輸送・荷役等に関する協定」のもと、大規模災害時の物流等に関する研修会を実施。タイミーを通じて、これまで物流業界で働いたことがあるワーカーを中心に参加者を募集しました。
今回、タイミー編集部も「大規模災害時の物流等に関する研修会」に参加。研修会の詳細レポートはもちろん、参加者の感想も紹介します。
「大規模災害時の物流等に関する研修会」実施の背景
近年、地球温暖化などの気候変動の影響もあり、日本国内における自然災害の発生リスクは高まっています。地震や豪雨といった自然災害の激甚化が懸念される中で、予測される被害を回避・軽減するためにも常日頃から意識を高めていく必要があります。
その背景を受け、さいたま市と丸和運輸機関は、2020年3月「大規模災害時における物資の輸送・荷役等に関する協定」を締結。さいたま市で災害が発生した際、丸和運輸機関は市の協力要請のもと、支援活動を行います。
しかし、物資運搬や管理、配布などにおいて人手はいくらあっても足りません。災害発生時に即戦力として支援業務を担える人材を育成し、迅速・最適な物資支援ができる状態にしておくことが重要です。
そこで、災害時の物資集積拠点の運営・管理を円滑に行うことを目的に、2024年10月23日「大規模災害時の物流等に関する研修会」を開催。さいたま市と丸和運輸機関が締結している「大規模災害時における物資の輸送・荷役等に関する協定」のもと、タイミーワーカーを募集しました。
物流に関する専門知識やノウハウの習得はもちろん、研修受講者に対して優先的に丸和運輸機関による支援業務の求人を公開することで、迅速な支援活動を目指します。
タイミーワーカー対象の「大規模災害時の物流等に関する研修会」に潜入
今回の研修は、さいたま市大宮区の「広域拠点備蓄倉庫」にて実施されました。この倉庫では、実際の災害時に配付される、食料や簡易トイレなどの物資が保管されている拠点です。
さいたま市の土井課長、丸和運輸機関小倉常務による開会挨拶によって、研修がスタートしました(コメントは下記参照)。
座学講習
最初に座学で「災害時物流の基礎知識」について学びます。
例えば、「災害時における物流課題について」の項目では、支援物資の仕組みや支援要請の流れ、どのタイミングでワーカーが関わるか……などについて学習します。
支援物資の配送には「プッシュ型支援」という、国が被災地からの要請を待たずして物資を送ることができる仕組みがあります。しかし、場所や被害状況によっては、被災地の物流拠点で滞留し、避難所に物資が届かないことが繰り返し発生したことがあったのだそう。それは「人的リソース問題」「物資支援拠点に適さない場所で管理する」という原因で、緊急事態では物流の専門的なノウハウがない職員が作業を行うことも多く、混乱が発生してしまうことも。
そこで重要なのが、物流専門家の確保。物流における専門的な知識や経験があり、正確な物資把握や荷捌き、仕分けと保管、迅速な配送を行うために必要な人材です。タイミーワーカーも物流専門家の元で業務を行うことで、最適でスムーズな物資支援を行うことが可能になるのだそう。
その他にも、派遣される際に必要な携帯品の説明もありました。
例えば、被災地は埃が多い可能性があり、建物の倒壊も発生していることからマスクやゴーグル、ヘルメットの着用が必要なこと。食料確保をする際には、パンやおにぎりなどの炭水化物ではなく、ドライフルーツやサプリメントでビタミンを補う必要があることなど、被災地で業務を行うために必要な視点で解説していただきました。
また、被災地で支援を行うスタッフはどうしても頑張り続けてしまう傾向があり、自らが体調不良に陥ってしまうことも多いのだとか。そこで、「急ぐな・走るな・頑張るな」という注意喚起を踏まえ、休憩時間をしっかり確保するような動きになったことも学びました。
物資の運送において、被災者のことを尊重することはもちろん、自分の身体も守ることが大切だと理解できた時間でした。
実技研修
災害時物流の基礎を理解したら、次は実技研修です。広域拠点備蓄倉庫の中を見学した後、2tトラックを使用した荷受から検品、配置までを一緒に実践していきます。
その際、ハンドリフトの使い方や在庫検品方法の確認なども学びました。
最後にグループワークを実施。これまで学んだことを参考にしながら、実際に災害があった場合にどのように物資拠点内をレイアウトしていくのかワークショップを行いました。
賞味期限の違った商品はどのように配置するのか、荷解きをするための十分な作業スペースは確保できているのか、搬入・搬出を踏まえて動線を確保できているのか、格納できない物資はどこに配置すればいいのか……など、チーム内で意見を出し合いながらまとめていきました。
チーム内の議論は白熱し、なかなか止まることはありませんでした。最後にそれぞれのチームが考えたレイアウト配置のプレゼンテーションを実施し、お互いの発表内容を褒め称え合いました。
最後に、丸和運輸機関 BCP物流支援企画部 矢嶋担当部長による閉会コメントをいただき、研修会は終了しました。
「研修を受けてどうでしたか?」ワーカーさん3人に直撃
講習に参加していたワーカーさんに、参加のきっかけや研修に参加してみての感想をお伺いしました。
- Aさん
- 私は以前市役所で働いていた際に、被災地の物資管理にも携わったことがあります。しかし、当時はまだIT化が進んでいなかったこともあり、欲しいものがどこに、どれだけあるのかわからず非常に時間がかかったんです。今回申し込んだのは、そのときの歯がゆさや力不足さを2度と経験したくないと思ったから。災害時に押さえなくてはいけない基礎から丁寧に教えていただくことができ、非常に勉強になりました。
- Bさん
- 現在タイミーを利用して、物流倉庫で働いています。丸和運輸機関の現場でもお世話になったことがあり、非常にやりがいを感じていました。タイミーの通知でこの研修を知り、もし日本国内で何かあったときに自分の経験やスキルが活かせるのではないかと、迷わず申し込みしました。他のワーカーさんと協力してワークしましたが、災害時にもチームワークが重要なのだと感じました。非常に意義のある取り組みで参加して良かったです。
- Cさん
- 私の遠い親戚が被災したことがあります。元気にしている親戚に安堵すると同時に、自分にとっても決して関係ないことではないと強く感じました。そこで、防災士の資格を取得したのですが、より実践的な知識を学びたいと思うようになって、今回申し込みました。ご担当者に直接質問できましたし、実践できたのがとても良い経験になりました。
開催にあたり、さいたま市・丸和運輸機関からコメント
さいたま市防災課 土井課長からのコメント
過去の大規模災害において、食料などの物資が避難所・被災者など必要な人のもとへ必要な物資が届かないといった課題が多くありました。我々行政サイドとしては、物流に関するノウハウが不足しているのが現状です。そこで、協定を締結している丸和運輸機関さんと、人手不足に対応するための実効性がある施策を実施したいと考えております。
今回の研修会を通して災害時の物流に関する知識やノウハウを学ぶ良いきっかけになりました。災害時においては、市の対策本部の物流オペレーションチームという組織があるものの、まだまだ学ぶべきことがあると再確認できましたし、外部への委託の重要性を感じております。
丸和運輸機関 小倉常務からのコメント
我々丸和運輸機関では、一般社団法人「AZ-COM丸和・支援ネットワーク」を中心として現在全国79の自治体と災害時支援協定を結んでいますが、今回のような研修はさいたま市さんが初めての取り組みになります。災害発生時は多くの職員の方やボランティアの方が被災地の物資支援を行っているものの、それだけでは手が足りないのが現状です。そこで我々の知見や経験を多くの場所に提供していきたいと考えており、タイミーさんと連携して今回の研修開催に至りました。
今回のさいたま市さんとの取り組みをベースに、全国でもこのような取り組みをしていきたいですし、研修に参加した皆さんが同じ思いを持って災害時の物流支援に取り組むことができたらと願っています。
- 取材ご協力先
- 丸和運輸機関
1970年の創業以来、輸配送サービスブランド「桃太郎便」を展開。現在は小売業に特化した3PL(サードパーティ・ロジスティクス)事業者として「EC物流」「低温食品物流」「医薬・医療物流」をコアと位置付け、加えてSDGsの取り組みの一環として「BCP物流」を強化している。BCP(事業継続計画)については、一般社団法人「AZ-COM丸和・支援ネットワーク」を中心として自治体や企業と「大規模災害時における支援活動に関する協定」を締結し、物流面からの広域支援を推進している。
- タイミーラボ編集部
タイミーラボは、株式会社タイミーによるオウンドメディアです。
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