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築50年リノベーションしたお家で日々の暮らしや自然の美しさを発信している「TAKASU TILE」は、登録者数22万人の人気YouTubeチャンネル(2024年11月現在)。
チャンネルを運営している高須亮佑(たかす・りょうすけ)さんは、もともと消防士として働きながら趣味で動画制作をしていました。癌に罹患したことやお兄さんが他界したことをきっかけに、「この瞬間は今しかないんだ」「時間は有限だから好きなことに使おう」と思うように。現在高須さんは消防士を辞め、YouTubeの発信をしながら目の前の暮らしを楽しんでいます。
8月に初の書籍『TAKASU TILE 自分をHAPPYにする暮らし方』を出版した高須さん。「時間が何よりも大切」と語る彼は、HAPPYに働くためにどんな工夫をしているのでしょうか。時間の使い方や働き方、人生観が変わったきっかけについて伺いました。
暮らしっていつまでも当たり前にあるものじゃない
――高須さんはもともと消防士をしていたそうですね。
高校生で進路を考え始めたとき、先生に「君は勉強よりも身体を動かすほうが好きだから、目的なく大学に進むよりも手に職をつけたほうがいいんじゃないか」と勧められて、消防士の道へ進みました。
僕が働いていたところは24時間勤務だったので、忙しいときは一睡もできなかったり、仕事が終わったあとに体力作りという名目で何十㎞も走ったり、体力的にはかなり厳しかったですね。上下関係も厳しかったし。でも、そのおかげで耐え抜く力が身に着きました。
――消防士時代から動画制作をされていたんですか?
20歳くらいから、休みの日に趣味で動画制作を始めたんです。友達の結婚式で流す動画を作ったりもして。思い出を動画で残してあとから見返すという行為にどんどんハマっていって、それが楽しくて夢中で動画制作をしていました。
――最初は趣味で動画制作をしていたんですね。当時は、ずっと消防士を続けていくつもりだったのでしょうか?
消防士になって最初の3年くらいはそのつもりで、仕事に役立つ資格をいろいろ取ったりもしていました。だけど4年目くらいから、仕事に慣れて余裕が出てきたぶん、「自分の人生これでいいのかな」と迷い始めて……。そんなとき、癌が発覚しました。
――衝撃的なできごとですね。
僕は119番の通報を受け取る部署にいたのですが、その日は台風で忙しくてまったく眠れず、朝になってようやく仕事が終わって帰宅しました。一眠りして起きると、身体のある部分が異様に腫れていたんです。病院へ行くと「癌です」と告知されました。一刻を争う状況だと言われ、すぐに大きな病院へ行くことになって……。帰りの車の中、「僕は死ぬのかな」と怖くてたまりませんでした。
幸い手術は無事に成功し、転移もなく、術後は順調に回復していきました。術後は3週間ほど仕事を休んで安静にしていたんですけど、布団から窓の外を見ていると、いつも見ている景色がすごく美しく感じたんです。緑がすごく輝いていて。「僕の暮らしっていつまでも当たり前にあるものじゃないんだ」と強く感じました。人生をより大切に生きよう、大切な時間を好きなことに使おう、と思うようになりましたね。
時間は有限じゃないから好きなことをして生きたい
――病気が、時間を大切にするきっかけになったんですね。
はい。その一年後に兄が他界したことも、人生観が変わるきっかけになりました。僕は三人兄弟の末っ子なんですけど、両親が自営業で朝から晩まで仕事をしていたので、兄ちゃんたちに育ててもらったようなものなんです。父や母から怒られた記憶はあまりないけど、兄ちゃんたちが厳しく叱って育ててくれました。
兄は22歳で難病が発覚し、長いこと実家で療養生活を送ったのち、30歳で他界しました。毎日当たり前に会えた兄と会えなくなったことで、それまで以上に周りの人たちに感謝を伝えたいというか、「今伝えなきゃダメなんだ」と思うようになりましたね。
――お兄さんとの別れが、より今のような時間を大切にする生活の後押しになったんですね。
自分の病気や兄との別れを経験したことで、それまで以上に「今は今しかないんだ」と思うようになりました。動画制作を仕事にしたいと思うようになったのもこの頃です。とにかく自分の好きなことに時間を使いたくて、兄が亡くなった3ヶ月後に、田舎暮らしVlogの1話目をスタートさせました。
――田舎暮らしを発信しようと思った理由は?
自然の中で暮らすことの魅力を発信したかったんですよね。僕自身が、病気や兄との別れなどいろいろあって辛かったときに自然に癒されたから。自然って、魅力がいっぱいあるんですよ。たとえば自分で育てた野菜のおいしさだったり、木々の緑の美しさだったり、季節の移ろいの匂いだったり。そういう感覚を発信したかったんです。
――自然の魅力は、高須さんの動画から伝わってきます。YouTubeチャンネルを始めて一年後に、消防士を辞めたそうですね。
はい。「時間は有限じゃないから好きなことをして生きよう」という気持ちが日に日に大きくなって、あるとき、動画制作で食べていこうと決意しました。もともとスパっと決断するタイプなんですが、このときも誰にも相談せずに退職を決めて、家族にも事後報告でした。
自然の中にいれば、何をしていても常に楽しい
――今は毎日、どんな時間の使い方をしていますか?
働いている感覚があまりなくて、暮らしの延長線上にYouTubeがある感じです。朝は5時半に起きて読書をして、朝ごはんを作って自然を眺めながら食べます。そのあとは、動画を撮ったり、編集したり。昼ごはんを挟んで引き続き動画の作業をして、途中で畑仕事をしたり散歩をしたり、知り合いのお店に遊びに行ったりします。夜ご飯を食べたらもう仕事はしません。基本的に、あまり忙しくならないようにしてます。時間がいちばん大事なので。
――動画からも伝わってきますが、時間や周りの人など、目の前のものをすごく大切にされている印象です。
時間はもっとも価値があるものだと考えています。たとえば時間に余裕がなくて、「これが終わったらあれをやらなきゃ」とか頭で考えていると、好きなことをしていても心から楽しめないじゃないですか。それってすごく残念なことだなと思って。
僕も消防士時代は、仕事のかたわらで動画制作をしていて、常に時間がなくて心に余裕がありませんでした。だけど消防士を辞めてからはいつも気持ちがゆったりしていて、妻にも「もともとおおらかだけど、ますますおおらかで明るくなったね」と言われます。
――時間に余裕がないのが原因で好きなことを楽しめなくなっちゃうこと、私もあるのでよくわかります……。
今は畑仕事や料理などの好きなことに時間をたっぷり使えているし、「あれをやらなきゃ、これもやらなきゃ」と焦ることがない。何より、明日を想像したときに「明日も仕事か……」と憂鬱になることがないのがいいですね(笑)。
――明日の仕事を想像して憂鬱になる人は多いでしょうね。高須さんが8月に出版した書籍のタイトルは「TAKASU TILE 自分をHAPPYにする暮らし方」ですが、幸せに働くために心がけていることはありますか?
無理をしないこと。あと、自分がワクワクしないことはしない。たとえばお仕事の依頼があったとして、それを受けるかどうかは、金額よりも心が動くか否かで決めています。常に楽しいかどうか、HAPPYかどうかを価値基準にしていますね。
――HAPPYかどうかってすごく素敵な基準です!一日の中で、どんな時間が一番楽しいですか?
常に楽しいです(笑)。動画制作も楽しいし、散歩も畑仕事も楽しい。自然に囲まれたこの環境が大好きなので、ここにいれば何をしていても楽しいんですよ。すぐそばの畑で野菜が採れて、みかん畑に行けばみかんが採れて、井戸水が湧いて……。一つひとつ自分で暮らしを作って楽しんで、それを一緒に笑ってくれる妻がいて、日々幸せを感じています。
――そんな高須さんのライフスタイルを羨ましく思う人も多いと思います。時間や自分の気持ちを大切にしている高須さんですが、仕事に「やりがい」を求めることはありますか?
やりがいを求めてはいないけど、結果的に視聴者さんからのコメントがやりがいにつながっています。以前「うつ病で外に出られなかったけど、高須さんの発信を見て外に出られるようになった」というコメントをいただいたことがあって、発信していて本当に良かったなと思いました。YouTubeを始めたばかりの頃は自分の知名度を上げることに躍起になっていたけど、だんだん自分のためだけじゃなく、僕の動画を見てくれる方に喜んでもらえるようにと動画を作るようになりましたね。
おばあちゃんに教わった田舎暮らしの極意
――著書を拝読すると、祖母である美江子さんからの影響を強く受けているように見えます。
農作業は全部美江子さんから教わりました。美江子さんはお茶目でいろんなことに興味がある人。90歳近い今でも美容やファッションに興味があるし、いっぱい食べるし、年齢を理由に何かを諦めることがなくて日々を更新しようとしてる。美江子さんを見ていると、歳を重ねるのも楽しそうだなぁと思います。
僕の田舎暮らしVlogの1話に美江子さんが出てくるんですけど、ゴミがつかないように頭にビニール袋をかぶって掃除してるんですよ(笑)。その姿を見たとき、めちゃくちゃ笑ってしまいました。それ以来、僕の動画には美江子さんが欠かせません。
――とてもチャーミングですね。大きく影響を受けた美江子さんの教えはありますか?
「おすそ分け」をする文化ですね。畑で採れた野菜や山で収穫したたけのこを、近所の人や、お世話になっている人たちにおすそ分けすること。食べ物を分け合うだけじゃなくて、周りの人たちを手助けすること。ご縁を大切にしながら生活していくことを、美江子さんから教わりました。
何より、美江子さんはすごくアクティブなんです。運転免許を返納するまでは、買い物、病院、友人宅と一人でどこへでも行っていました。近所に新しくできたインドカレー屋さんの話をしたら、「そこはすでに行ったわよ」と言われたときはびっくりしましたね(笑)。美江子さんは何事においても楽しそうなんです。そんな美江子さんから僕は影響を受けていると思います。
――今、時間や仕事に追われてなかなかHAPPYに生きられない方も多いと思います。そんな状況の方がHAPPYに暮らすには、どうしたらいいと思いますか?
自分のやりたいことや好きなことに目を向けてほしいと思います。仕事や子育てが忙しくて好きなことに時間を割けない場合でも、たとえば「朝ごはんの時間が好き」なら朝ごはんの時間をきちんととるとか、そういう小さな幸せを見つけることならできると思うんです。生活の中に小さな幸せをたくさん見つけられたら、人生がより豊かに、楽しくなっていくんじゃないかなと思います。
――それなら忙しくてもできそうです。さいごに、今後の夢を教えてください。
夢は高須村を作ることです。畑では野菜を育て、その隣で山羊やニワトリを飼って草や生ゴミを食べてもらう。そんな循環の生まれる村を作りたいです。そして高須村で民泊も始めて、そこでまた雇用が生まれたら村全体が潤い循環する。そんな場所を作るのが今の僕の夢です。
(取材・執筆:吉玉サキ、撮影:fujico、編集:プレスラボ)
- タイミーラボ編集部
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