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お金、経験、仲間、夢——。「はたらく」を通じて得られるものはさまざまあります。なかには、自分の人生が変わるような機会に巡り会った人もいます。2024年5月、若干22歳で、アルバイト先の会社の新社長に抜擢された諸沢莉乃さんも、その一人です。
諸沢さんは高校1年生から、有名カレーチェーン「ココイチ」のFC店を運営する株式会社スカイスクレイパーでアルバイトを始めました。そして、20歳のときに前社長(現会長)の西牧氏から社長の打診を受け、2年間の修行を経て就任。
「アルバイトから社長への転身」という、まさに人生の可能性を広げた諸沢さんは、どのような経緯でココイチFCで働き始めたのか。社長に抜擢されるほどの活躍の裏にある、仕事への向き合い方とは。諸沢さんから、「はたらく」を通じて人生の可能性を広げるための秘訣を伺いました。
「お金だけではなく、人生に必要なものを」諸沢さんの心に火をつけた前社長の言葉
——諸沢さんはどんなきっかけで、ココイチFCでアルバイトを始めたんですか?
高校1年生のとき、周りの友達がアルバイトをしているのを見て、働くってどんな感じなのかが知りたくなったんです。偶然そのタイミングで、自宅のポストにスカイスクレイパーが運営するココイチFC店の求人チラシが入っているのを見つけました。
「テスト休みをとっていい」など、学生に嬉しい条件が書いてあったので、友人と一緒に応募したんです。ココイチのカレーが大好きだったから応募したわけではありません(笑)。
——職種にもこだわりはなかったんですね。
そうですね。でも、接客の面白さにはすぐに気づきましたよ。接客には正解がなくて、人それぞれの個性が出せますし、相手のためを思ってやったことがお客様の笑顔として返ってきます。最初は週に何日か働く程度でしたが、仕事が楽しくて、気づいたら毎日働くようになっていました。
——学校に行きながら毎日働いていたんですか!なぜ、そこまで熱中できたと思いますか?
最初に働いていたお店で、「こんな女性になりたい!」と思える方に出会えたのが大きいです。大学生のアルバイトさんでしたが、仕事は丁寧ですし、仕事以外のところも本当に素敵な方。人の悪口は絶対に言わないし、ネガティブなことも言わない、内面も外見も美しくて憧れました。
あるとき、その方が接客コンテストに出場するのを応援しにいったんです。そこで、西牧会長から「来年は諸沢さんだね」と言われたことで火がつき、コンテスト優勝を目指して仕事に励むようになりました。
——憧れの人の存在がモチベーションになったんですね。
もうひとつ、意識がガラリと変わったきっかけが、西牧会長が開催してくれた勉強会です。その場で話されたのは、仕事についてではなく、人生についてでした。自分の人生のゴールから逆算して、「これまでにこのくらいお金が必要」「このスキルを身につけたほうがいい」といった、棚卸しを一緒にしてくれたりしたんです。
そこで会長がよく話してくれたのが、「アルバイトの3時間を3000円に変えるだけではもったいない。人生に必要なものを学ぶためにこの場所を使ってほしい」ということ。一生使えるものを得て卒業してほしいというメッセージが胸に響いて、モチベーションがガラリと変わりました。
社長になったいま、社員やアルバイトさんに向けて同じメッセージを、まるで自分の言葉かのように伝えています(笑)。
——「自分の人生のためにここで働いていい」って、勇気をもらえる言葉ですね。他にも、諸沢さんを支えた教えはありますか?
スカイスクレイパーって、ミスをしても怒られないんですよ。先輩たちは、怒るのではなく、ミスした後の対応を一緒に考えてくれます。企業方針に「失敗を恐れない」という言葉があるように、一生懸命やったミスには「どんまい!」と言ってくれる。その考え方のおかげで、安心して挑戦することができました。
——逆に、大変だった経験はありますか?
たくさんありますよ(笑)。お客様が飲みかけのカフェオレを下げちゃったこともあります。あとは、福神漬けを容器に詰める作業に集中しすぎて、社員さんが呼ぶ声に気づけなくて「周りが見えていない」と指摘されたこともあります。悔しくて、それから視野を広げることを意識するようになりました。
——指摘されても落ち込まず、前向きになれたのはなぜですか?
指摘をされたあとは、必ず周りの方がフォローしてくれたんです。アメとムチみたいに、落ち込んでいたら、気分を盛り上げようとしてくれる。営業時間内にフォローができない場合は、帰宅後に連絡をくださることもありました。そういう文化があったことで、いつでも前向きに働くことができたんです。
周りの支えのおかげで乗り越えた、社長就任までの準備期間
——挑戦に前向きな環境があったんですね。その後、社長への打診を受けられましたが、その経緯を教えてください。
20歳で、ココイチグループ従業員の接客スキルを示すランクの最上位である「スター」という称号をいただいたんです。総従業員2万人以上のなかで30人くらいしか持っていない称号なんですが、私は16人目、歴代最年少で獲得しました。それが決まったあとに、西牧会長から「次の社長をやってみないか」と打診されたんです。
——いきなりの打診ですが、どう返答したんですか?
迷わずに「はい」と答えました。正直、社長という仕事について深く理解していたわけではないのですが、西牧会長のような人になれると思うと、ワクワクが勝ったんです。それに、信頼している会長が「大丈夫」と言うなら、きっと大丈夫なんだろうと思いました。
——すごい決断力ですね。そこから22歳で就任されるまでの2年間は、どんな経験を積まれたんですか?
そこまでアルバイトのスタッフとしての経験しかなかったので、まずは店長をやってみることになりました。売り上げも良くて仕事が忙しそうな静岡県の大きな店舗を任されたのですが、そこでいきなり壁にぶち当たって......。
初めての一人暮らしでホームシックになったり、学生さんだけではなく、年上の方やパートさんたちを巻き込む難しさを感じたり。店長は現場に入る時間が長かったので、体力的なキツさもありました。辞めたいとは思いませんでしたが、心身ともにボロボロだったと思います。
——そんな状況で頑張れたのはなぜですか?
そのときも、やっぱり周りの人がサポートしてくれたんです。たとえば、当時の静岡のエリアマネージャーは数字に強い方で、開店前と閉店後に営業数値の分析などの勉強を手伝ってくれました。「この人がこのまま社長になったらやばい!」と、内心は思っていたのかもしれませんが(笑)、みんな心から応援してくれたんです。
当初は「自分みたいな若い子が社長になることを、よく思わない人もいるかもしれない」と思っていました。しかし、この2年間、足を引っ張るようなネガティブなことを言われたことは一度もありません。無事社長に就任できたのは、私に時間を使ってくださった、みなさんのおかげです。
——諸沢さんが一生懸命学ぼうとしていたから、みなさんも協力したくなったんじゃないでしょうか。新しいことを学ぶ際に、意識してきたことはありますか?
アルバイト時代からずっとやってきたのは、その日あったことを振り返る「日報」です。学んだことや反省点、お客様と話したことを書き込むと、西牧会長からコメントがもらえました。最初のころはそのコメントがモチベーションになっていましたが、続けていくうちに「日報を書くために、積極的に学びを取りにいこう」と思うように。先輩にわからないことを聞いたり、進んでお客様と会話したりするようになりました。
——アルバイトを人生の糧にするには、1日をきちんと振り返り、学びを蓄積するのが大事なんですね。
そうですね。あとは、素直さも大事だと思います。スカイスクレイパーでは「素直最強、頑固最悪」という標語があるのですが、変なプライドを持たないで、素直に人の話を聞いて、改善できるのは大事なこと。その意識があれば、いろんなことを吸収しやすくなると思います。
「青春」のような環境で、それぞれの幸せを追求してほしい
——社長就任から約半年が経過しましたが、現在のお仕事内容を教えてください。
就任直後はメディアからの取材対応が多く、本格的に社長業に手をつけ始めたのは7月からです。それから、8月〜9月でココイチ25店舗、他にも運営しているラーメン店2店舗の計27店舗をすべて巡回しました。必要な場合はシフトにも入りながら、店長さんとコミュニケーションをとったり、各店舗の状況を把握したりしたんです。
やっぱり、社長になっても現場に入り続けたいと思っています。現場に入らないで数字だけを見ていても、会社の状況やお店がどのように運営されているかをきちんと把握できないと思いますし、なにより現場が大好きですから。人の入れ替えは当然ありますが、なるべく社員、アルバイトさん全員と働いたことがある状態でいたいと思っています。
——社長として目標にされていることはありますか?
今はまだ、1年の運営の流れを把握しているフェーズなので、遠くの未来については考えきれていません。1年目は経営の流れを掴んで、2年目で、たとえば新店舗出店などのチャレンジをしてみる。成功と失敗を積み重ねて、3年目には完璧に社長業ができるようになり、西牧会長に安心して引退してもらうというのが、いまの目標です(笑)。
——接客のスペシャリストである諸沢さんが社長になったことで、お店がどう変わるのか、いちココイチファンとして楽しみです!
引き続き、お店ではお客様に「感動」を届けていきたいと思います。またお店に来たい、またこのスタッフに会いたいと思ってもらえるような場所にしたいです。
それと、働く側にとっては「青春」のような場所にしたいと思います。いい思いも、悔しい思いもたくさんできて、仲間もできる。「人生で一番楽しくて、一番燃えていたのがココイチだった」と思ってもらえたら嬉しいです。
いまうちには、60歳で学校の校長先生を退職し、飲食店経営を夢見て入社した社員や、すでに店長を任されている高校生のアルバイトさんもいます。「意思あるものにはチャンスを」という考えを大切に、その人にとっての挑戦を応援し、幸せを追求できる職場にしていきたいです。——仕事への意欲が高い人がたくさんいらっしゃるんですね。一方、最近は仕事に求めるものが多様化していたり、効率的に働きたいと思う人もいたりします。
会社の価値観を押し付けようとは思っていません。それでは、その人の人生のためではなく、会社のために働いてもらうことになってしまいますから。
それに、体験してみなければわからないこともありますよね。だから、「働くって楽しいよ」と伝え続けながらも、それを押し付けるのではなく、自然と体感できるような環境をつくりたいと思っています。
人としての当たり前の積み重ねが、チャンスをたぐり寄せる
——色々なタイプの人が、人生の可能性を広げられる場所になりそうですね。改めて、「はたらく」を通じて、自分自身の人生にプラスになる経験をするためには、どんな意識を持つことが大切だと思いますか?
私は、もともと社長になろうと思ってアルバイトを始めたわけではありません。本当に小さなご縁をもとに、想像もしなかった未来に立っています。そこから思うのは、「目の前にきたチャンスは必ずつかむ」という意識が人生の可能性を広げていく、ということです。
迷っていては、チャンスは他の誰かに取られてしまう。チャンスの大小や、できるできないに関わらず、とにかく掴んでみることが大切です。
それと、新しいことに取り組む際は、素敵だと思った人のやり方を徹底的に真似ることをおすすめしています。私も、“憧れの女性”の接客や佇まいを真似しましたし、日報の書き方も真似しました。わからないことがあれば素直に人に頼るのも大切です。
——前のめりな姿勢と、素直に人を頼ったり真似たりすることが大切、と。では、そもそものチャンスと巡り合いやすくなるための秘訣はありますか?
まずは明るい人でいることですね。「話しづらい」って思われたら、人もチャンスも近づいてきません。誰との間にも壁をつくらず、いつカメラを向けられてもニコって笑えるような状態で過ごせるといいと思います。
あとは、「ありがとう」「ごめんなさい」「お願いします」の3つをきちんと言うこと。人として当然のことですし、人を頼るうえでも「お願いします」と言えるのは大切です。
私自身もいまだに、アルバイトの子に接客を教えてもらうことがあります。教えてもらったら、自然と「ありがとう」という言葉が出ますよね。一方、「ありがとう」と言われた人は嬉しくなって、他の人にも感謝を伝えるようになる。そうすると、自分の周りに感謝が溢れて、いい関係性ができて、いろんなチャンスにめぐり逢いやすくなるんです。
——特別なことや能力が必要なのではなく、人としての当たり前を積み重ねれば、自ずとチャンスに巡り会えるのかもしれませんね。「はたらく」を少し前向きに捉えられたような気がします。
仕事って「人生のスパイス」だと思うんです。私たちはみんな、働くために人生を送っているのではなく、充実した人生にするために働いている。仕事がスパイスとして、人生に彩りを与えてくれていると思えたら、あまり気負いせずに、自分らしく挑戦できる人が増えるはずです。働くことには色々な可能性が詰まっています。ぜひ「人生にスパイスを」と思って、取り組んでいただきたいです!
(撮影:村井香)
- タイミーラボ編集部
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