目次
紀伊半島東部の東紀州エリアにある、人口15,841人の小さな町——三重県尾鷲市。海と山に囲まれ、魚介が美味しい地域です。
他の地方都市同様、少子高齢化が急速に進んでいる同市。実際、内閣府『令和5年版高齢社会白書』によると、65歳以上の高齢者割合は29.0%であるのに対し、尾鷲市の高齢者割合は45.9%にも上っています(参照:尾鷲市『人口・世帯(令和6年2月)』)。
そんな危機的状況を捉え、改革を続けているのが株式会社主婦の店 代表取締役社長 CEOである北裏 大氏。地域密着したスーパーマーケット7店舗を運営しつつ、尾鷲商工会議所の会頭も務める北裏さんは、新しいものをどんどん取り入れるアクティブ・パーソン。人材確保のためにいち早くタイミーを導入し、町のインフラであるスーパーマーケットの安定稼働を実現しています。
そこで今回は、北裏さんに尾鷲市のスーパーマーケットシェア率70%を誇っている店舗運営の秘密やタイミーを含めた人材育成についてお話を伺いました。
- 取材ご協力先
- 株式会社主婦の店
昭和33年5月の設立以来、三重県尾鷲市エリアを中心に地域に愛されるスーパーマーケットを運営。安心・安全の商品ラインナップ、お客様を第一に考えた店舗設計など、尾鷲市のスーパーマーケットシェア率70%以上を誇っている店舗運営戦略は業界から注目を集めている。
小さな町こそ、インフラとして機能するスーパーマーケット
——北裏さんは、主婦の店の代表取締役でもありながら、尾鷲商工会議所の会頭でもおられます。そこでまず尾鷲市、そして貴社が抱えている課題について教えてください。
全国規模で少子高齢化の波が押し寄せていますが、尾鷲市もその傾向は顕著です。主婦の店創業当時、尾鷲市の人口は3万3,000人でしたが、今では1万6,000人までに減少している状態。大手チェーン店が攻めてこないエリアなんですよ。スーパーマーケットを展開している身としては、競合参入ではなく商勢圏の減少に頭を抱えている状態です。
しかし、それ以上に問題に感じているのは、お客様の前に従業員がいなくなってしまうのでは?ということ。かつては高校生の就職先として多くの方が働いてくれていたのですが、それも徐々に減ってしまっている。チェッカーと呼ばれるレジスタッフも70代〜80代と高齢化が進む一方。座ったままレジを打つなんてスタイルが当たり前になってくるかもね、って同業の社長同士で話していますよ。
つまり、これからの時代において地方のスーパーマーケットの生き残りの要となるのは、「売り上げ」以上に「良い人材の確保」。うちに限らず近隣のスーパーマーケットは今後どのように採用・育成・定着させていくか、最重要課題として頭を悩ませていますね。
——少子高齢化、人口減少に伴い、働き手の確保が難しくなっているわけですね。
その通りです。ただね、私はスーパーマーケットこそ町のインフラだと思っているんですよ。例えば何か災害が起こった際、ライフラインの確保はもちろんだけど、重要だったのがスーパーマーケットだったんです。食料・飲料・日用品を充実させるのはもちろん、特に尾鷲市のような小さい町の場合、スーパーマーケットに明かりがついていると、住民の心持ちも違ってくる。以前、三重県で洪水が起きた時に「スーパーマーケットを早く復活させて」っていう多くの要望をいただいたこともありました。
例え人口が減少し続けていったとしても、主婦の店は尾鷲市とともに生きていく必要があるし、インフラとして存在し続けなければならないと思っています。
——そのような中で、主婦の店がスーパーマーケットシェア率70%を維持できているのはどのような戦略からなのでしょうか。
主婦の店では、商勢圏が限られているからこそ、一つひとつの店舗のファンになってもらわなければなりません。私たちはお客様の日常からハレの日まで生活のすべてに携わっていきたい。家庭の台所として、ハレの日を彩る食材を選ぶ場として「主婦の店にいこう」と思ってもらえるかどうかが重要になります。
それを目指すために、当社には店舗運営の基準となる方程式があります。それは「商品力×人間力」です。商品力とは、鮮度・品質・価格を重視し、住民のニーズに対応できる良質な商品を仕入れること。
ただし、我々は商品を売っているわけではありません。今はモノだけではなくコトが重要視される時代ですから、そこを意識しなければならないんですね。例えばお客様に美味しいお肉をお買い上げいただいたとして、食卓で「このステーキ美味しいね」「そうでしょ、主婦の店で買ったんだよ」といった会話が生まれることまで想像して私たちは商品を仕入れなければならないわけです。
そして人間力とは、パートナーを含めた従業員の採用・教育に力を入れることです。
私たちが人間力を重要視しているのは、「従業員満足度」は「お客様満足度」とイコールだから。お客様に喜んでもらえれば、従業員はより一層イキイキと仕事に向き合うことができますし、従業員が一所懸命仕事に打ち込めば、お客様も足を運んでくださります。当社ではこの相互関係を何よりも大事にし、愛される店づくりを行っています。
お客様満足度を高めるには、従業員が仕事に打ち込める環境が必要
——従業員満足度を重視しているとのことですが、これまでにどのような取り組みを行ってきたのでしょう?
ここ最近はコロナ禍だったので行けてないんですけど、毎年社員旅行を実施していました。先代からの恒例行事で。大きなバスを貸し切って、温泉宿に行くんです。ただ従業員に強制はしません。企画や内容が面白ければ自然にみんな参加してくれますからね。工程作成やイベント企画は私も率先して協力しています。意外と若い人たちから「社長の人柄がわかった」「別の店舗のスタッフとの会話ができた」って言われてね、評判がいいんですよ。そろそろ慰労も兼ねて、再開したいと考えているところです。
仕事においてもいろんな取り組みをしていますよ。自動発注システムを率先して導入することで従業員の業務軽減化につなげたり、システムに頼れるところはどんどん任せちゃえば、従業員が楽になってその分お客様に向き合えるわけです。
——従業員が仕事に向き合えるよう、オンオフ両方の側面から施策を行っているんですね。
そうですね。実は15年ほど前のことですが、従業員に対してアンケートを実施したんですよ。それまでも定期的にモーラルサーベイは実施していたんだけど、そのときは「仕事で一番嬉しかったこと」と「仕事で一番辛かったこと」の2つに絞って聞いてみたんです。
「仕事で一番嬉しかった」の項目で、従業員の80%以上が「お客様から褒められたこと」と回答していて。社長に褒められたことって回答した人はたった1人しかいなかった(笑)。それぐらいみんなお客様とのコミュニケーションを大事にしてるんですよね。だから、従業員がお客様との時間を大切にできるよう、従業員が望むことは積極的に吸い上げて取り組むようにしています。システム導入もその一環ですね。
興味深かったのが「仕事で一番辛かったこと」の設問において50%は「お客様からのお叱り」だったんだけど、その次に多かったのが「入社してから先輩に教えてもらえなかったこと」。約30%の人がそのように答えていたわけです。教育システムが確立していない中小企業の我々にとって耳が痛い結果でした。以前は「先輩の背中で覚えて」というのが当たり前だったじゃないですか。それに甘んじていた部分があったと反省したんですよ。「これはいかん」と思ってね。すぐに私の直下で研修制度を整えるようにしました。
こんなちっちゃい町に、タイミーで働きに来てくれる人なんていないと思っていた
——主婦の店では、タイミーを活用いただいてますが、どのような経緯で導入したのでしょうか?
もともとTVコマーシャルでタイミーのことは知っていたんですよ。でもね、「東京とか大阪とか大都会の話でしょ?うちには関係ないよね」ってずっと思っていました。ただ、CGCグループ(※全国のスーパーマーケットで構成する日本最大のコーペラティブチェーン)に加盟している多くの会社がすでにタイミーを導入していて、評判をたくさん聞いていたんだけど、それでも田舎には無理だと信じられなくて(笑)。長野県に会社を構える社長からも「うちでも申し込みがあったんだから!とりあえずやってみなよ」って後押しされて、「ダメもとでいいか」と一度試してみたんですよ。
そしたら、あっという間に人材がマッチングしたんです。こんな田舎にも働きに来てくれる人がいるんだってびっくり。シフトでは難しいけどスポットでなら働きたいと考えている方も多いんだって認識することができました。中には松阪市から車で何度も通ってくれるワーカーさんや「帰りにお店で美味しい魚買って帰る」と来てくれるワーカーさんもいるみたいで嬉しい限りですね。
——一方で、スポットで来てくれる方には教育コストもかかると思います。北裏さんの方で何か意識していること、取り組まれていることってありますか?
やっぱり初めての場所って誰もが緊張しちゃうでしょう? 初めて飛び込んだ職場ですでにグループができていると話しかけづらかったりするかもしれない。そういう意味で、あえて「さん付け」運動をしていたりします。全員一律で名前にさんをつける。そうすれば距離感を感じなくて済むかもしれないですから。タイミーに限らずですが、初めて来た人が無理に溶け込もうと肩肘張らないよう、フラットに自然に馴染んでもらえるための取り組みは意識していますよ。
また、研修が大事だって話しましたが、これはタイミーワーカーさんも一緒のはず。ですから、できるだけ店長が最初に仕事内容から休憩室まで丁寧に説明するように徹底しています。
他にもなんでもかんでもやってもらおうとせず、一つの仕事に専念してもらうようにするなど、お願いする仕事も気をつけています。新しく覚えなきゃいけないことがいっぱいだと不安を感じちゃうからね。この辺は自分が指示しなくとも店長たちは自然に意識しているみたいです。
——今後、タイミーをどのように使っていきたいと思っていますか。
今まで高校生の就職先として受け入れを行っていたのですが、それも減少している状態です。全体的に欠員はあり、そこを補充するため従業員に負担がかかっているんですよ。それを補う一手として使っていきたいと思っています。
また、市内だけではなくて市外の方を働き手として迎え入れることもできるかもしれません。お試し的に働いてもらうことで、外からしか見えなかったうちの良さや仕事のやりがいを感じてもらえるかもしれないですしね。尾鷲市っていいところだな、って思ってもらえるかもしれない。
ちょっとしたきっかけでも尾鷲市に来て働いてもらうことで、町の良さを感じてもらうことができる。そこがスポットワークを導入する良さかもしれませんね。
今までは長く働くのが正というのが一般的だったかもしれないけど、それは昭和の価値観。今は考え方を広げて、時間単位で働くという価値観も受け入れていくべきだし、調和が必要なんだと感じています。
(取材・執筆/齋藤裕美子)
- タイミーラボ編集部
タイミーラボは、株式会社タイミーによるオウンドメディアです。
https://lab.timee.co.jp/