私のタイミー生活

「どんなに売れてもバイトは辞めない」——芸人・みなみかわさんの“芸能界にしがみつかない”仕事論

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「どんなに売れてもバイトは辞めない」——芸人・みなみかわさんの“芸能界にしがみつかない”仕事論

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下積み生活とアルバイトは、切っても切り離せないもの。お笑い芸人もそのひとつでしょう。バイトで生活費を稼ぎながら、ネタを作り上げて舞台に立ち、いつか売れて芸人だけの稼ぎで食っていく……そう夢見る人も多いはず。

ところが、今回お話を聞いたみなみかわさんは、「絶対にバイトを辞めたくない」と言うのです。

2019年にコンビを解散してピン芸人になって以降、その冷静な着眼点と、切れ味の鋭い話術で数々のバラエティ番組に出演するようになったみなみかわさん。お笑い芸人としてブレイク中にも関わらず、時間を見つけてはバイトを続けています。

みなみかわさんがバイトを辞めないのはなぜなのか。その理由を聞いていくと、「芸人の仕事」と「バイト」を行き来する、みなみかわさんの仕事論が見えてきました。

“普通の感覚“を保ちたいから、バイトは絶対辞めたくない

——みなみかわさんは、現在もバイトを続けていると伺いました。

はい。恵比寿の服屋で配信を手伝ったり、深夜営業の歯医者で受付をしたりしてます。どちらも以前から続けていたバイトです。

歯医者は10年くらいやってるんですけど、だいぶ頻度が減って、今は月1~2回ぐらいですね。このあいだ、たまたまニューヨークの屋敷が受診しにきて、「なにやってるんですか!?」ってビックリされましたよ。撮影でもドッキリでもなんでもなく、本当にただのバイトです。僕、バイト辞めたくないんですよ。

僕、バイト辞めたくないんですよ。

——てっきり、芸人の皆さんは「早く売れてバイトを辞めたい」と思っているのかと……。

ほとんどの芸人がそうだと思いますけど、僕はもう20年くらいバイトを続けているせいか、してない状態が気持ち悪いんですよね……。

それもこれも、芸人の仕事だけで食っていくのが現実的じゃなかったからだと思います。なぜそうなったのかは、大阪に住んでいた若手時代のことを話さないといけないんですが……。

——ぜひお願いします。

吉本興業さんは、自分たちの劇場がたくさんあるんですね。腕があれば劇場の出番がもらえますし、出演料が収入になる。ある程度の月収が担保されるわけです。

でも松竹芸能は劇場が少ないし、出番があっても当時は「練習の場だから」ということでギャラがなかった。だから、ネタを書き続けるにはバイトをするしかなかったんですよ。バイトが言わば、芸人の“基本給”だったんです。

芸人って「先輩が後輩に必ずおごる」とか、「高めの家賃のところに住む」みたいなこと言うじゃないですか。そんなの松竹芸能の僕らでは成立しませんでしたから。絶対無理。「アホちゃうか」と思ってました(笑)。

——とはいえ、最近はバラエティ番組でもたくさん活躍されていて、バイトをしなくても十分なくらいお仕事が増えたと思うのですが……。

今の仕事は「みなみかわさん出てくれませんか」と呼んでいただくことで成立しているんですね。劇場の出番は「自社の仕事」ですけど、出演依頼は「取引先からの仕事」。性質が違うんです。呼ばれなくなったら、もうそれまで。

自分に自信がないのかと言われたら「そうです」って返すしかないんですけど、芸人1本で仕事を続けるのは、めちゃくちゃ不安なんですよ。僕の芸風的に人を傷つけるような笑いだから、いつまでも続くようなものじゃない。悪口言ってホンマに嫌われたりするし。

だから「事務所に頼りきりになるのではなく、自分でお金を稼がないといけない」という考えが、常に頭の中にあります。まぁ、「事務所を信用していない」って言い換えてもいいんですけど(笑)。

——YouTubeなど、芸人としてお金を稼ぐ手段もいろいろありますが、それでもバイトを選ぶ理由はなにかあるのでしょうか?

芸人以外のことをいろいろ経験した方が、芸人の仕事にもつながると思うんですよ。他の業界の人と話すと面白いですし、稼ぎ口はいくつあってもいいですし。

それに、芸人の世界だけにいると、考えが偏ってしまいそうで。業界に染まって驕り(おごり)みたいなものが出るのも良くないから、バイトを通じて“普通の感覚“を保っていたいんですよね。

バイトを通じて“普通の感覚“を保っていたいんですよね。

「架空の仕事」で予定を埋めたら、仕事がどんどん増えてきた

——これまで、みなみかわさんはどんなバイトをしてきたのでしょうか。

学生時代から、めちゃくちゃいろいろやってきましたね。最初が日雇いの引っ越しで、次がスーパーの魚屋。そのあとが映画館。映画館は大学生ばかり働いていて、サークル活動みたいで楽しかったなぁ……。僕は大学の夜間コースに通っていて、いわゆる“キャンパスライフ”を経験できてなかったので、その映画館に青春を見出してましたね。それで、大学在学中に芸人になるんですが……。

——芸人になってからはどんなバイトを?

データ入力とか串カツ屋とかマッサージ店とか……。テレアポは2009年からコロナ前まで、10年くらいやってました。家庭教師のテレアポと、通販の受付のテレアポを掛け持ちして。通販番組で「番組終了後30分間オペレーターを増やしてお待ちしています」って言うじゃないですか。あれです。増やされてました。

あと珍しいところでは「パチンコ屋の写真を撮る」っていうのやってましたね。

——パチンコ屋の写真……?

パチンコライターの方が記事に使う写真を、代わりに撮って送るんです。都内近郊でキャンペーンをしているパチンコ屋を回って、店の外観とか景品所の写真を撮る。昼間のどの時間に行ってもいいし、僕はバイクに乗ってるんでバイクでいろんな店舗を回れたんで楽でしたね。

ピークの時は24時間働いてましたよ。朝から家庭教師のテレアポやって、ライブに行って、パチンコ屋の写真を撮って、夜に通販のテレアポやって、朝帰ってきてまたテレアポ行って……。バイトで月40~50万くらい稼いでいました。やばかったですね。

やばかったですね。

——空いている時間があったらバイトを入れる、という感じだったんですね。

そうでしたね。あと、当時はバイトだけじゃなくて、「スケジュールに架空の仕事を入れる」ということもしていたんですよ。

お世話になっていた脚本家の金沢知樹さん(※代表作『半沢直樹』『サンクチュアリ』など)から、「売れたかったら架空の仕事を作ってスケジュールをいっぱいにするといい」と聞いたんです。

「映画のコラムを書く」とか「出演番組のアンケートを書く」みたいな仕事が来たことにして、自分で締切を決めて本当にやる。そしたら、ホンマに仕事が増えていったんですよ。

——それはすごい……!

テトリスみたいに隙間時間を埋めて、1週間くらいギチギチに過ごすのが気持ちよかったですね。埋まっているスケジュール帳を見ると「頑張ってるなぁ」って思えたし、「忙しくなるとこうなるのか~」とシミュレーションもできて。

……なんかこういうこと言うとストイックに見えるんですけど、めっちゃダラダラもしてましたよ(笑)。予定通りにいかないときも、もちろんありましたけど、そのスケジュールを念頭に置いて過ごしてはいましたね。

仕事もプライベートも時給で換算する癖が直らない

——みなみかわさんは2012年に結婚されて、現在は7歳と5歳の息子さんがいます。家族ができたことで、働き方に変化はありましたか?

ありましたね。子どもが生まれてからは、バイトもかなり増やしました。

長男が生まれたころ、妻は会社員だったんで、産休と育休が使えたんですね。で、育休から仕事に復帰するときに保育園を探したんですよ。僕もバイトしてるし、共働きだから。

でも認可保育園には落ちて、認可外保育園に預けないといけなくなりました。そこの保育料が月26万円。

——そんなに……!

もうね、全部計算したんです。認可保育園の選考は“点数制”で、いろいろ条件が重ならないと点数が加算されない。「認可外保育園に預けている人」は点数が加算されるから、次の選考で認可保育園に入れるには、やっぱり預けないとダメだと。

妻が仕事辞めて子育てする、という道もありましたけど、長期スパンで計算したら月26万円払ったほうが得なんですよ。その保育園には3ヵ月くらい預けましたけど、お金がみるみる飛んで。「ちゃんと稼がないとあかんな」と思いました。

——お話を聞いていると、みなみかわさんは本当にお金のことをきっちり考えられていますよね。

性格なんですよね。もともとケチだし、借金は絶対したくないし、生活水準も上げたくない……んですけど、妻が勝手に上げてくるんですよね……。妻のほうが金銭的には芸人気質で、突然30万円のソファーを買ったり、美容室に3万円使ったりして……。

「ちょっと抑えたほうがいいんじゃない?」ってやんわり言うんですけど、だからといって喧嘩にはならないんですよ。なぜかというと、僕にバイトの精神が染みついているから。「ここで喧嘩して不機嫌なまま2時間過ごしたら○○円損やな」って、時給で換算しちゃうんです。

時給で換算しちゃうんです。

——プライベートのなかにも「精神の時給」があるんですね(笑)。

機嫌直すのに3日かかったら3万円損したことになる。じゃあ美容院で3万円使ったらトントンやな、じゃあもう言わんとこか、って感じですね。

この癖、直したいんですけど直らないんですよね……。仕事でも「今日の仕事は時給これくらいか~」とか(笑)。24時間のロケとかあると「東京都の最低賃金、下回ってない!?」って思いますし。

あと芸人の仕事だと、「明日何時からオーディションあります」って急に予定入れられるのが嫌ですね。バイトのシフト組めないじゃないですか。普通に仕事していたら、そういうのって1週間前に言いますよね?

——たしかに……。

しかも、バイトなら確実にお金もらえるのに、オーディションは下手したら落ちるし、フジテレビだとゆりかもめにも乗って往復で1000円以上かかってしまう。考えられない。途中からマネージャーに「俺の生活を奪う気か!?」ってキレてましたもん。「そんな仕事やりたくないです」って。今考えたら「そんな奴売れんやろ」って思います(笑)。

「芸能界にしがみついた奴から辞めていくよ」

——みなみかわさんの中では、芸人の仕事もバイトも同じ「仕事」として、フラットに見ているように感じました。

芸人が「バイト辞めたい」とか「もうやってられない」とか言う気持ちも分かるんですけど、「いや、ここで働いてる人もいるから」って思うんです。バイト先で頑張ってる人たちだって、たくさんいるじゃないですか。

もちろん、やりたい仕事をやるのが一番ですけど、やりたい仕事だけやるのもなんだかな……と。芸人の仕事でも苦手なものはあるし。

働くのって基本的に、きつくて、つらくて、大変なものなんですよ。お金をいただくわけですからね。そのなかに「結果楽しかったな」というのがあるだけで。

ベースにそういう考え方があるので、気持ちが楽な面もあるかもしれないですね。大変な仕事が来ても「仕事ってそういうものでしょ」っていう。

大変な仕事が来ても「仕事ってそういうものでしょ」っていう。

——今はテレビ出演も増えて、芸人として一段と忙しい日々を送られているかと思います。この状況を、率直にどう捉えられていますか?

自分の中で、割り切った部分があったのが良かったのかもしれないです。「芸人やめよう」と思ってから、だんだん仕事が増えてきたんですよ。だから今でも一過性のものだと思っています(笑)。

これは聞いた話なんですけど、オジンオズボーンの篠宮さんが、大竹まことさんに「芸能界にしがみついた奴から辞めていくよ」って言われたんですって。ホンマにそうやなと思って。

——芸能界に残ろう残ろうとすると、逆に芸能界には残れない……ということですか。

たとえば若いころ、飲み会の席で一生懸命スタッフさんの機嫌をとって、仕事をもらおうとしていたんですよ。そういうの苦手なんですけど、先輩が「付き合いは大事だ」と言うし、やらなきゃと思って。

でも、それで仕事につながったことって1回もなかった。結局、おもしろいことを頑張ってる人にしか仕事ってこないんですよね。

——「芸能界にしがみつかない」という考え方は、今のバイトにもつながってきますか?

そうですね。芸人を続けたいからバイトをしている、というのが正直なところかもしれません。

あまりに芸人に執着しようとすると、やっぱりどこかで綻び(ほころび)が出そうで。だから「そっちがダメになったら、こっちはこっちでやるから」みたいな気持ちでいられたほうが、精神的にも安定するし、努力もできるような気がしています。

今は、他の仕事をしながら芸人をしている人もいるんです。これが許される時代でもあるんですよね。「芸人1本でいく」のは美学でもあるんですけど、バイトに限らずいろいろな仕事したほうが、結果的にいい方向につながると思います。特に松竹芸能の芸人は時間が絶対あるから働いたほうがいいですね(笑)。

特に松竹芸能の芸人は時間が絶対あるから働いたほうがいいですね(笑)。

(取材・執筆:井上マサキ、撮影:関口佳代、編集:プレスラボ)

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/media/タイミーラボ編集部
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