タイミー通信

「現地産業で『働く』」に特化した移住へ。「特定地域づくり事業」で図る、地域雇用の安定化

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「現地産業で『働く』」に特化した移住へ。「特定地域づくり事業」で図る、地域雇用の安定化

目次

群馬県みなかみ町は、都心から新幹線で約65分と好アクセスながらも、雄大な自然を誇る町です。これまで大切に守り育まれてきた豊かな水と森林は、世界からも注目され、自然と人間社会の共生を目的とする「ユネスコエコパーク」にも登録されています。夏は山登りやラフティング・キャニオニング、冬はスキー・スノーシューと、多くのアウトドア好きを魅了してきました。

日本百名山の一つである谷川岳の稜線日本百名山の一つである谷川岳の稜線

「遊びながら仕事する」をコンセプトに、コロナ禍以降移住者の数を伸ばしてきたみなかみ町。一方で、地域産業の担い手不足に一定の課題を抱えてきました。そこで今回、北関東地域に先駆けて開始させたのが、総務省が推進する「特定地域づくり事業」。町内事業者が共同で設立した組合にて働き手を雇用。各事業者に派遣するという手順です。

まだまだ始まったばかりである本事業の目的とは。本事業に期待されている働き手へのメリットとは。

今回編集部は、みなかみ町役場担当者のみなさんと、本事業の発起人の一人である組合参画事業者「角弥」代表 渡辺一彦さんのもとを訪れ、事業開始の背景を取材しました。

マルチワークで労働力のシェアを目指す。みなかみ町が推進する「特定地域づくり事業」とは

—— まず、みなかみ町が移住施策に力を入れることになった背景を教えてください。

中山さん:
みなかみ町に限らず、全国どの地方自治体にも共通していることだと思いますが、少子高齢化や都心部への人口流出に起因する人口の急減が、移住施策に力をいれることになった背景です。

現状、年間400人程度の人口が減少していて、このペースが持続すると、18,000人の町内人口が2060年には5,000人まで縮小するという見立てがあります。主産業である観光業や農業をはじめ、各種産業での深刻な担い手不足が喫緊の課題です。

—— 40年間で約1/3になってしまうとは......!衝撃的な予測ですね。みなかみ町の移住支援施策はどのようなものなのでしょうか?

中山さん:
都心からのアクセスの良さを強みとし、これまでは主に首都圏の企業で働くリモートワーカーの移住支援に力を入れてきました。コロナ禍を迎えた直後には、オンライン移住相談会を県内に先駆けて開始し、今も月イチペースで実施。のべ200組の移住相談を受けました。空き家バンク制度(*1)やレンタカー補助金制度(*2)、さらには新幹線通勤費の補助制度(*3)を用意し、移住後の生活を支援してきました。

平日はリモートで仕事をし、休日は世界水準の豊かな自然の中で遊ぶ。そういったオンオフの「オフ」の質が高い点が好感触を得、2022年度には総数21組37名(2023年2月時点)と、多くの移住者を受け入れました。*1 空き家を貸したい人と借りたい人を、賃貸や購入に繋げるサービスのこと
*2 移住・テレワーク目的でのレンタカー借上料の一部を補助する制度
*3 移住後、新幹線を利用して群馬県内外へ通勤する人に、「みなかみ町新幹線通勤費補助金」を交付する制度

—— 都心で働く人にとっては素晴らしい環境ですね。一方で、移住による町内事業者の人手不足の解消という点では、どのような状況なのでしょうか?

中山さん:
正直、町内事業者への就業者数はそこまで伸びていません。移住者全体のうち、6割が都心の企業に勤務するリモートワーカー。残り4割が起業や町内事業者への就業という内訳になっています。ただしここ数年、国内他地域からの移住者の町内事業者への就業例は以前に比べると減少してしまっているんです。

リモートワーカーの移住促進は、ある程度達成されたということで、次は町内での就労を前提とした移住を促進すべく、今回の「特定地域づくり事業」が立ち上がりました。

観光商工課 移住・交流推進係 主任 中山文弥さん観光商工課 移住・交流推進係 主任 中山文弥さん

—— 「特定地域づくり事業(正式名称:みなかみ町特定地域づくり事業協同組合)」の概要を教えてください。

須田さん:
人手不足の課題を抱える事業者に対して、組合が雇用する働き手を派遣するといった座組みの事業です。総務省主導の事業で、交付金や町の補助金を用いながら運営されています。

総合戦略課 地方創生室 企画係 主任 須田啓介さん総合戦略課 地方創生室 企画係 主任 須田啓介さん

みなかみ町は、県内でも有数の観光の町。一方で、アウトドアインストラクターや飲食店従業員などが冬場に働く場所が無く、シーズンごとの労働力バランスがうまく取れていないことが大きな課題でした。

この「特定地域づくり事業」では、組合に雇用されている働き手は年間2カ所以上の職場に派遣されることが決まっています。夏場はアクティビティのインストラクターや飲食店従業員として働いて、冬場はスキー場で働くなど、年間を通じたマルチワークで、雇用の安定化を目指しています。

みなかみ町特定地域づくり事業協同組合(通称:「み組」)図解みなかみ町特定地域づくり事業協同組合(通称:「み組」)図解 (*4)(*4)出典:「み組」ホームページ

石坂さん:
働き手としても、様々な種類の職場から選べるという点では、自分にあった仕事を探す良いきっかけになるのではないかと。現在は観光業やサービス業に特化していますが、上手くいけば今後は保育士や介護士など、専門性の高い職業での展開も期待しています。

総合戦略課 地方創生室 官民共創係 課長補佐兼官民共創係長 石坂貴夫さん総合戦略課 地方創生室 官民共創係 課長補佐兼官民共創係長 石坂貴夫さん

—— 本事業においてタイミートラベルは、「働き手の確保」の部分で協業させていただいています。協業できると判断された理由は何ですか?

石坂さん:
「町外人材とのマッチング」と「地域住民との交流機会の提供」というタイミートラベルのパッケージが、本事業にマッチしていると感じたからです。お試しで1週間だけ働きに来て、その職場の従業員や先輩移住者と交流することで、みなかみ町のことを好きになってもらい、最終的には移住したいと思ってもらえると考えています。

タイミートラベル概要図タイミートラベルとは?

(出典:タイミートラベル公式HP

中山さん:
今後は、就業や交流体験で町のことを知り、関係人口になってもらった上で、いかに移住や地域内での就業に発展させていくのか。タイミートラベルのようなサービスによって、いかに受け入れの間口を拡げていくのかが大事になってくると思います。

「人」を大事にすることが、地域活性化の第一歩。 ——雇用の安定化の重要性

次に編集部は、みなかみ町内のそば処「角弥」を運営する 株式会社角弥 代表取締役の渡辺 一彦さんのもとを訪れました。渡辺さんは、「みなかみ町特定地域づくり事業協同組合」の代表を務める、本事業の発起人の一人です。

渡辺さんのお話から、本事業は単に事業者の人手不足解消だけを目指しておらず、むしろ働き手目線での課題が発起点となっていることが明らかになりました。

—— 組合を発足させることになったきっかけは何だったのでしょうか?

渡辺さん:
以前から、地域の働き手がキャリアを描けないことや、地域事業者の人手不足に対する課題を感じていて、みなかみ町役場の方々と一緒に解決案を議論してきました。その後、総務省主体で「特定地域づくり事業」が発足するという話を行政の方から持ちかけていただき、一緒に始めることになったんです。

—— もともと渡辺さんから行政に対してボトムアップ式に課題を共有していたところに、本事業が立ち上がったんですね。渡辺さんが感じていた課題とは、具体的にはどのようなものだったのでしょうか?

渡辺さん:
大きく2つの課題がありました。働き手目線では、雇用が安定していないこと。事業者目線では、労働人口が地域へ定着していないことです。

アウトドア事業者や飲食店で働く地元の仲間たちが、「歳をとっても今の職場で働けるのか」「社会保険も適用されないし、将来が不安」といった理由で職場を離れ、望まない職に就く姿を、これまでよく目にしてきました。また、夏には町内で働けていた人たちが、冬には仕事を求めて県外に渡るケースも多く、地域内での安定した雇用を実現できないものかと頭を悩ませてきたんです。

一方で、町内事業者の多くは、従業員に対して賞与や福利厚生を提供しづらい個人事業主です。安定した雇用を実現しようにも個人事業主にはそれが不可能で、結果、労働人口が地域外に流出してしまう......というような状況でした。

—— そこで、業界間での人材シェアを可能にする「特定地域づくり事業」が立ち上がった、と。

渡辺さん:
そうです。本事業において季節ごとのマルチワークを行う働き手は、この組合に正社員として雇用されます。個人事業主が提供するには負担が大きくて、カットされてしまいがちな賞与や福利厚生も、交付金や町の補助金を使ってきちんと提供されるんです。通常の派遣会社だと仲介手数料がかかってしまいますが、それらの負担が軽減されるだけではなく補助金類を上乗せして働き手の皆さんに還元できます。

正社員と変わらないくらいの給与水準を保つことで、働き手の将来的な不安が解消できます。反対に事業者にとっても、去年と同じ人が働きに来てくれるので、業務の効率化や人件費の削減などが期待できるんです。働き手にも雇用側にもメリットの大きい取り組みだと考えています。

株式会社「角弥」代表 渡辺一彦さん 株式会社「角弥」代表 渡辺一彦さん 

—— 知れば知るほど、奥が深い事業ですね......。渡辺さんがここまで本事業に能動的でいらっしゃるのには、根底にはどんな理由があるんでしょうか。

渡辺さん:
そば処「角弥」は、1764年頃(江戸時代中頃)に創立されました。私は2014年に先代から店を引き継ぎ、14代目として「みなかみを世界一の観光地にする!」という思いを持って店を切り盛りしてきました。町全体が盛り上がっていないと、当店のような規模の店はすぐに潰れてしまうということが分かっていたからです。

そのためにも、町全体で抱えている課題は、仕組みごと見直していこうと思い至ったんです。

—— みなかみ町の活性化のためにはやはり「人」が必要で、「人」のためにも雇用の安定化は不可欠という考え方が一貫されているんですね。

渡辺さん:
はい。雇用の安定化という点では、この「特定地域づくり事業」は有効です。町内の個人事業主に組合に参画してもらって、一緒に雇用の安定化を図っていければと願っています。

タイミートラベルとは

タイミートラベルとは?

地方での仕事や生活を体験したい人と、人手やスキルが欲しい地方の事業者をマッチングするサービスです。働き手は現地での仕事や生活の体験を通じて、滞在費を賄いながら第二の故郷を見つけることができ、事業者は繁忙期の人手不足やスキルを要する課題を解決することができます。

今回、みなかみ町「特定地域づくり事業」の参画事業者に、町外の働き手との接点創出の目的でタイミートラベルをご活用いただきました。参加者の中には「町の文化や歴史、地域の人たちの優しさに触れ、二拠点生活への意欲が高まった。来年度中には実現したい。」と、アンケートに回答した方も。まだまだ「移住」の実現には段階があるものの、町の魅力を知ってもらい関係人口を創るという第一ステップが実現されました。

今後もタイミートラベルは、自治体様・事業者様に伴走し、地域課題の解決に貢献していきます。

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/media/タイミーラボ編集部
タイミーラボ編集部

タイミーラボは、株式会社タイミーによるオウンドメディアです。

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