タイミー通信

経営者は畑に出るべきか?  スポットワークが実現する第一次産業の新たなかたち

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経営者は畑に出るべきか?  スポットワークが実現する第一次産業の新たなかたち

目次

昔も今も私たちの生活の根幹を支えている「食」。しかし、その産業を担う農家の人口は、1950年をピークに減少の一途を辿っています。その背景には、雇用機会の拡大による都市部への流出や、高齢化にともなう離農、また農業従事者の高齢化などが指摘されており、未来の日本の食料自給率の担保は危うい状況です。
(参照:農林水産省「農業従事者、新規就農者の動向」2006年, 最終アクセス2022,08,03)

農業経営者数の推移などのグラフ

(引用:農林水産省「2020年農林業センサス結果の概要」2021年, 最終アクセス2022,08,03)

今回タイミーラボ編集部は、スポットワークサービス「タイミー」を利用するさつまいも農家「なかせ農園」の中瀬 靖幸さんを訪ねました。農業運営において重要な要素である人材確保における課題とは。あるべき人材配置とは何か。熊本県 農業支援担当の竹下さんを交えて、農家経営の普遍的課題を掘り下げていきます。

/media/中瀬靖幸さん
株式会社なかせ農園
中瀬靖幸さん

両親、弟と共に営んでいた先祖代々の農業を転換し、女性社員、障害者社員等を雇用して「株式会社なかせ農園」を運営。就農前は東京で出版社に勤務するサラリーマンだった。「なかせ農園」は約30年前に父親が始めたさつまいも農家。阿蘇の恵みがもたらした肥沃な土壌環境と独自の熟成技術で、甘みが強く質の良いさつまいもを生産。)

/media/竹下 智也さん
熊本県 県北広域本部農業普及・振興課
竹下 智也さん

熊本県職員。地域の農業者等に対し25年に渡り農業技術や経営戦略策定等を支援。活動は農業分野にとどまらず、食品製造業や飲食店等の商品開発支援、また首都圏での販路開拓営業や店頭PR、福岡県への地域食商品の販路・物流構築等プロデュースも。熊本県発祥で全国に広がった「農業経営塾」の創設や第1-3期運営に携わった後、第8-10期運営リーダーとしてカリキュラム等全体を統括。累計100人超の塾生育成に携わる。

ピーク時に必要人員を集められないもどかしさ

——なかせ農園でのタイミー導入にあたって、竹下さんにサービスを紹介していただいたと聞いています。

竹下 智也さん(以下、竹下さん):
はい。当時、肥後銀行さんと共にさまざまな農家さんに、タイミーをはじめとするスポットワークサービスを勧めていたんです。中瀬くんとは以前から面識があり、勧誘の最優先ターゲット群の一人でした。

そもそも私がスポットワーク(雇用型ギグワーク)に注目するようになったのは、「農業経営塾」という若手農業者向け勉強会を担当していた時に、多くの経営者たちから「雇用が足りない」という声を聞いていたからです。

中瀬 靖幸さん(以下、中瀬さん):
私も前から、スポットワークのサービスが熊本にないか気になっていたんです。タイミーのこともニュースやSNSを見て知っていたので、竹下さんからお話をいただいてすぐ、導入を決めました。


——短時間だけ雇用するスポットワーク(雇用型ギグワーク)のサービスに興味を持ったきっかけを教えてください。

中瀬さん:
ピークシーズンにのみ限定的に人手を確保することで、収益性をガツンと高めることができると考えたからです。さつまいもは8月末から11月末にかけて順次掘り進めますが、長期間地中に埋めておいた方が肥大化するため、本当はギリギリまで収穫時期を引き伸ばしたいんです。とはいえ、11月末以降は霜が降りてきてしまうので芋が傷んで出荷できなくなってしまいます。つまり、霜が降りるギリギリの時期まで人手を増やして一気に掘り進められれば、芋の収量も10%以上アップするので、それだけ収益性も上がるという計算でした。

竹下さん:
タイミーは手数料*を負担に感じて導入できない農家もいるんですが、なかせ農園はその損益バランスがぴったりマッチしました。
*編集部注:タイミーでは日給+交通費の上乗せ30%分を、手数料として頂戴しています。

中瀬さん:
たとえば時給が500円アップしても、収穫期間の上乗せ総額は15万円程度。一方で売り上げは、芋の収量アップによって全体で反収が10%上がれば500万円以上上がります。ピークシーズンを一番良いタイミングで終えることができれば収益性が高まるので、うちはタイミーとの相性がよかったんです。

農業は、一年中一定量の仕事があるわけでないので、通年で多くのパートさんやアルバイトさんを雇えません。パートさんに仕事をお任せするために、夏場など栽培に適さない時期に無理矢理作業を作り出している農家もあると聞きます。それではいくら収益をあげても人件費にあてることになってしまいます。そのため、必要な時期にだけ働きに来てもらえると農家としては助かるんです。


——それは全ての農家さんに共通している問題でしょうか?

竹下さん:
そうですね。たとえば花農家は、一本あたりの値段が上がる「母の日」などのピークシーズンに合わせて収穫したいと考えています。しかし現状では、今ある人材リソースから逆算して、順々に収穫するしかありません。

中瀬さん:
私も同業者にスポットワークサービスを勧めていますが、一歩が踏み出せなくて結局家族だけで乗り切ってしまうところがほとんどです。早朝から夕方まで畑作業、そこから夜中まで出荷作業を土日休みもなく、毎日繰り返します。

竹下さん:
それは、中瀬くんより年上の農家さんなの?

中瀬さん:
いえ、自分と同年代の農家です。先ほどもお話しした通り、オフシーズンにお任せできる仕事がないので、親族や友達以外の人を雇ったことがないところも多くて。なので、直接つながりのない人に働いてもらうこと自体に抵抗があるようです。中には90歳以上のおばあちゃんも作業員に含めて、一家総動員で作業しているところもあります。

広大なさつまいも畑

 「経営者も畑に出るべき」は終わり アイデア創出に時間をあてる

中瀬さん:
とはいえ、人手が足りないから経営者自身が畑に出てしまうと、資金繰りなどの経営判断ができなくなってしまいます。経営者が畑にいると「自分で頑張ればいいや」と、自分という人材資本を過剰投資してしまい、結果的に潰れてしまうんです。自分がやるべきこととそうでないことを切り分ける方が、意味があると思っています。

これまでの農家経営においては「考えること(座学)はヒマ暮らし」「作物に足音を聞かせろ」、つまり経営者自身も畑に出るべきだと言われてきました。しかし時代は変わり、個人事業主として経営を成り立たせるためには、業務の切り分けは必要不可欠になってきています。

竹下さん:
一般的な会社だと、経理や営業、広報などの役職があります。もし、それぞれが担当している業務を経営者が一手に引き受けてしまうと、目の前のことで精一杯になって、新しいアイデアが生まれなくなるでしょう。アイデアを生み出すことが本来の経営者の仕事だと、農業経営塾でもアドバイスしています。

中瀬さん:
うちの農園は障がい者雇用もしているので、業務の切り分けという考え方が自然にできているのかもしれません。適切な人員に適切に仕事を配分する。その配分を考えることこそが、経営者の仕事だと思っています。

切り分けされた業務の一覧

 ——小さい頃から畑仕事を手伝っていると、経営と畑仕事を並行するようになってしまうのでしょうか?

中瀬さん:
幼い頃から親の背中を見て育ってきたため、そういう面もあるかもしれないです。自分は家業を継ぐ前に出版社に勤めたことがあって、他業種を経験してから地元に帰ってきたことが大きく作用したのではないかと。

出版社の中では、1冊の本が本屋さんに並ぶまでも、企画、編集、デザイン、広報、営業と、事業部ごとに業務が細分化されていてました。農業もこのように業務を細分化することが重要だと思います。

「まずは農業がどんなものか知って欲しい」

——タイミーの利用がきっかけで、長期採用に結びつくことはありましたか?

中瀬さん:
利用を始めて4日経ったとき、現場を任せている母と弟が「すごく良い人がいた」と、1人の男性を紹介してくれました。タイミーを通じて他の農園や牧場でも働かれているらしく、楽しそうに農作業をされていたのが印象的でした。農業経験者でどんな作業をお任せしても器用にこなしてくれるのを見て、「ぜひ来週も来てください」とお願いし、自社で直接雇用することになりました。


——素敵な方に出会うことができたのですね!一方、初めて農業をするという方も多いと思いますが、どんな方であれば農業を楽しんでもらえるでしょうか?

中瀬さん:
農業は決して楽な作業ではありませんが、自然に触れることによる癒しの効果もあると思います。農家の私たちにとってはただキツイ仕事も、携わる人にとっては作物に囲まれて日の光と風を感じながら体を動かすことが新鮮で居心地が良いのかもしれません。

竹下さん:
農業への興味や関心は人によって全然違います。食料としての農産物には関心があっても、職業としての農業への認知や興味が今ひとつであることに課題を感じているんです。

担い手確保の一環として就農フェアを開催することがありますが、参加してくれるのは、もともと農業に関心がある人だけです。ですので、農業がどのようなものなのか少しでも知ってもらうことが大事だと考えています。

タイミーに注目したのも、その課題を解決できると思ったからです。タイミーだと小売業、飲食業と同じ選択肢の中に農業のお仕事が並んでいるでしょう。ふと目に入ることで「農業ってこんな手軽にできるんだ」と興味を持ってもらえる。体験後に「農業キツイ!自分には向いてない!」そんな感想を持つ方がいても良いんです。まず働いて体験してみて、職業としての農業のリアルと魅力を少しでも知ってもらいたいというのが、私の願いです。

なかせ農園

なかせ農園
熊本県 大津市所在。阿蘇山の麓で、さつまいも紅はるかを生産・販売している。 
https://www.nakase-nouen.com/

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/media/タイミーラボ編集部
タイミーラボ編集部

タイミーラボは、株式会社タイミーによるオウンドメディアです。

https://lab.timee.co.jp/

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