タイミー通信

「働き手と企業のより良い関係性づくりは、社会的なミッション」——カインズCHRO 西田氏とタイミーCEO 小川による対談

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「働き手と企業のより良い関係性づくりは、社会的なミッション」——カインズCHRO 西田氏とタイミーCEO 小川による対談

目次

働き手のニーズが多様化する昨今。企業には、新しい「働き手との関係性」が求められているのではないでしょうか。

2021年9月、ホームセンター『CAINZ』を運営する株式会社カインズは、新人事戦略を策定しました。 戦略の核となる新人事コンセプトは、「DIY HR®」。「DIY(Do it yourself)」の考えをもとに、メンバー個々人の自己実現を促進し、人と組織のパフォーマンスの最大化を目指す取り組み。まさに、働き手と企業の新しい関係性づくりの実例です。

そんなカインズは、店舗運営強化のために、タイミーを活用しています。

株式会社タイミーは、『一人ひとりの時間を豊かに』をビジョンに掲げ、創業当初から一貫してスポットワーク(雇用型ギグワーク)を取り扱ってきました。両社の取り組みには、アプローチ方法は異なれど、目指している社会像や価値観に重なる部分があります。

そこで今回は、カインズ執行役員 CHRO 兼 人事戦略本部長 兼 CAINZアカデミア学長の西田政之さんとタイミー代表の小川嶺で、「働き手と企業のより良い関係性」をテーマに対談を行いました。

カインズの新人事コンセプト「DIY HR®」の狙いと、個人の自己実現と組織の成長を両立させる組織運営のポイントとは。スポットワークによって働き手と企業の関係はどう変わるのか。両者の実践をもとに、紐解きます。

/media/西田 政之(にしだ まさゆき)氏
カインズ 執行役員 CHRO(チーフヒューマンリソースオフィサー)兼 人事戦略本部長 兼 CAINZアカデミア学長
西田 政之(にしだ まさゆき)氏

1987年、金融分野からキャリアをスタート。1993年米国社費留学を経て、内外の投資会社でファンドマネジャー、金融法人営業、事業開発担当ディレクターなどを経験。2004年に人事コンサルティング会社マーサーへ転じ、人事・経営分野へキャリアを転換。2006年に同社取締役クライアントサービス代表を経て、2013年同社取締役COOに就任。2015年にライフネット生命保険へ移籍し、同社取締役副社長兼CHROに就任。2021年6月より現職。日本CHRO協会 理事、日本アンガーマネジメント協会 顧問、日本証券アナリスト協会検定会員、MBTI認定ユーザー、森林組合員。(写真提供:カインズ)

企業の役割は「自己実現」のサポート

西田 政之(にしだ まさゆき)さん

——2021年9月、カインズは新人事コンセプト「DIY HR®」を発表されました。

西田政之(以下、西田)さん:
カインズはこれまで、チェーンストア理論(店舗運営を本部が中央集権的に行い、経営効率を上げる手法)をもとに、ルールに基づく統制的な経営を行ってきました。そのおかげもあり、第1創業期はホームセンターへの業態移行、第2創業期はSPA(製造小売り)による差別化によって成長してきました。

しかし、働き手や消費者のニーズの変化に対応し 、第3創業期として更なる成長を実現するためには、従来の人と組織の在り方を見直す必要がありました。そこで、事業を開発するSBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット)戦略、デジタル戦略、空間戦略とともに策定したのが、「DIY HR®」をコンセプトとする新人事戦略です。

小川嶺(以下、小川):
経営の中の人事の優先度が上がったんですね。第1、第2創業期の頃と比べ、働き手や消費者のニーズはどのように変化していると思われますか。

西田さん:
大きく2つの変化があります。

1つは、リテール(小売業)マーケットの変化です。価値観や生き方が多様化した結果、消費者のニーズはより細分化され、マス向けではなく自分向けと感じる商品が好まれるように。それに伴い、いわゆるイノベーションも「個」の情熱や発想が不可欠になりました。

ニーズの多様化に対応するためには、中央集権的ではなく、現場でのフレキシブルなサービス対応やアジャイルな商品開発ができる仕組みが必要です。つまり、「現場」や「個」を活かす経営が求められるようになったと言えます。

もう1つは、ジョブマーケットの変化です。特に若い世代を見ると、必ずしもブランドや安定性で就職先を選ばなくなっています。小川さんのように起業されたり、自分が成長できる企業を選んだりと、働き方の価値観やキャリアの選択肢は多様化しているんです。

企業が「働き手を選ぶ」のではなく、「働き手に選ばれる時代」になると考えています。

小川:
たしかに、私もタイミーを運営する中で、「働き方の多様化」を実感しています。

なぜなら、現在、約245万人いるタイミーワーカーさんが、多種多様な目的でサービスを利用してくださっているからです。たとえば、仕事復帰を視野に入れて子育ての空き時間に働く専業主婦の方や、副業として利用される方、起業のための準備として働く方がいらっしゃいます。

西田さん:
働く目的が多様になる社会で、企業に求められるのは「個人の自己実現」をサポートする役割だと思います。働き手と組織の目標のベクトルを合わせ、両者のパフォーマンスの最大化に繋がる経営が必要なんです。

組織に求められるのは、「個」に寄り添い「自律」を促すこと

組織に求められるのは、「個」に寄り添い「自律」を促すこと_01

小川:
個人の自己実現をサポートするためには、何が必要だと思われますか?

西田さん:
私は人事戦略を考えるうえで、一貫して大切にしてきたことはメンバーの自律」。自律とは、自力と他力のバランスを自分で決めること。すなわち、自分が他者や社会に対してなにができるのかという自己理解を深めることです。

自力を知るためには、まずは他力を知る——他社や社会といった外部の視点を、自分に取り入れる——ことが必要。

そこで、「DIY HR®」を推し進めるためにまず、全カインズメンバーを対象(雇用形態を問わず)とした「公募参加型」のリベラルアーツ研修を行いました。「カインズ白熱教室」と銘打って、ビジネスはもとより、禅やAI、哲学など各業界をリードする著名人7名をお呼びし、ビジネスの知見や最新の研究理論、社会の在り方について話していただいたんです。

このような研修は初めてだったので、メンバーが参加してくれるか不安でしたが、結果としては、増席しなければならなくなるほど大盛況になりました。参加された方の多くは 「外部の価値観や考え方を知れて視野が広がった」、「自分が目指す未来が見えた」と話してくれています。

小川:
外部の知見を得たことで自己理解が進み自律につながった、と。

研修を通じて一歩目を踏み出した方が自己実現をするためには、一人ひとりに寄り添うことも大事だと思います。多くのメンバーが所属するカインズさんでは、どんな仕組みによって「個」に寄り添っているんですか。

西田さん:
1 on 1を全社に導入したり、各部署にHRBP(事業責任者のパートナーとして事業成長を人事・組織面からサポートする役割)を設置したりすることで、メンバーがキャリアの相談をしやすい環境づくりを始めています。 ただ、組織変革には仕組みづくりと同じくらい「地道でアナログな取り組みも大切」だと思っているんです。

小川:
アナログな取り組みですか。

西田さん:
私自身が各店舗を回り、店長やパート、アルバイトの皆さんと話す「店舗巡回」を行っているんです。店舗数が多く、1人10分ほどしか時間はとれませんが、現場のリアルな声を聞いたり、カインズの大切にしたい価値観を伝えたりしています。

ある店舗の方は「前職の大手小売業では、パートの私たちが本部の方と話すことは許されませんでした」と、感動してくれました。 カインズが働き手を差別せず、誰もが自己実現できる企業を目指しているのを、肌身をもって感じてくださったようです。

「個」に寄り添うとは、こういうことの積み重ねなんだと思います。

小川:
そこまでされているとは驚きです。西田さんご自身の「個」に寄り添う原動力は、なんでしょうか。

西田さん:
年の功かもしれません(笑)。

組織に求められるのは、「個」に寄り添い「自律」を促すこと_02

真面目にお話すると、人事コンサル時代に多くの組織変革に携わってきた経験から、組織の変化には、「個」へのアプローチが重要だと学んだんです。 どんなに素晴らしい人事戦略も、それを実践するメンバーが腹落ちしていなければ意味がありません。一人ひとりの考え方や行動が変わることで、組織全体が変わっていくんです。

さらに、個人的な信念としても大切だと思っています。これまでいろんな人に支えてもらってきたからこそ、 今度は自分が「恩送りする役目」を果たしたいんです。

カインズにおいても、人への思いやりや感謝を循環させ、信頼の文化を築いていくことがめぐり巡って、個人と組織のパフォーマンスを向上していくと信じています。

「社内異動への活用」という、タイミーの新たな可能性

「社内異動への活用」という、タイミーの新たな可能性_01

——ここまでのお話から、企業に求められるのはメンバーの自己実現を促す環境づくりであり、メンバーに求められるのは「自律=自己理解」であると理解しました。小川さんにお伺いします。タイミーが実現するスポットワーク(雇用型ギグワーク)という働き方は、働き手の自律を促す新しい選択肢となり得るでしょうか。

小川:
西田さんのお話を伺って、改めてスポットワークの可能性を感じています。

手前味噌ですが、タイミーの良いところは「気軽さ」です。試しに数時間だけ働く体験は、 知らない世界を知り、人と触れ、自己理解を深めるのにぴったりな機会。たとえば、育児中の方やなんらかの理由で長時間就労が向かないワーカーさんにとっても、自己実現に向けた自律的な人生を送るきっかけになるはずです。

西田さん:
素晴らしいと思います。また、気軽に働けるという利点を活かすと、さらに色々な可能性が考えられる。たとえば、社内異動に応用できそうです。

現在、カインズではメンバーが自らキャリアを作れるように、公募制の社内異動制度を検討しています。そこでポイントとなるのが、ジョブマッチングの仕組みです。

1ヶ月ほどお試しで働いて相性を確かめるのが一般的ですが、 タイミーを活用すれば、仕事中に手が空いた数時間で、別部署の業務を体験できるかもしれません。

今後は、多くの企業がメンバーのキャリア形成を支援する方法を模索していくと思うので、この使い方は大きな可能性がありそうです。

小川:
面白いアイデアですね。

おっしゃる通り、タイミーは働き手のキャリア形成や自己実現を後押しするサービスですが、一方で、受け入れ先のメンバーにも良い影響を与えられるかもしれません。

いつも同じ店舗や部署で働いていると、「外部の視点」が入りづらく、自律に必要な自己理解は深まりづらいもの。タイミーを活用して、普段とは違う方と働く経験ができるのは、そうした課題の解消に役立つのではないでしょうか。

西田さん:
おっしゃる通りだと思います。

カインズのある店舗が、タイミーで働きに来てくれたワーカーさんの接客が非常に良く、お客様からお褒めの言葉をいただいたようなんです。その店舗がそうしたお声をいただくのは5年ぶりだったため、カインズメンバーにとっても大きな刺激になったと聞いています。

小川:
私たちにとっても嬉しいお声です。引き続き、ワーカーさんにとっても、受け入れ企業様にとっても、価値を生み出すサービスでありたいと思います。

日本が「自律した国」になる一助に

日本が「自律した国」になる一助に_01

——社内外問わず、働き手と仕事をマッチングできるようになれば、より自由なキャリア選択ができるようになりそうですね。最後に、働き手と企業のより良い関係性を作っていくために、プラットフォーマー側、企業側として、今後注力していきたいことを教えてください。まずは、小川さんからお願いします。

小川:
タイミーは、『一人ひとりの時間を豊かに』というビジョンを掲げています。5年後には労働人口の約40%にあたる1000〜2000万人のワーカーさんに、「働く」を通じて豊かな時間を届けていきたいと考えています。

それを実現するうえで、今日お話しした「自律」は非常に重要なテーマです。私たちはプラットフォーマーなので、「働く場所」は作れません。カインズさんのような自律を促す環境づくりをされている企業様と協力できると、社会により大きな貢献ができるだろうと考えています。

西田さん:
働く環境を作っている私たちとしては、 スポットワークで働きに来てくださった方々にも、カインズの一員としての体験をお届けしたいです。私たちが大切にしている「Kindness」のバリューを持ってお客様に接すること自体が、お金だけじゃない体験価値だと感じていただけるようになったら嬉しいです。

小川:
「働き手と企業の関係性」というテーマは、特定の企業だけが考えればいいことではありません。もはや、 人口減少社会の日本において「人手不足を解消しながら、誰もが豊かに働ける環境を作る」壮大なミッションだと捉えています。そうした高い視座を持ちながら、引き続きカインズさんとの取り組みをご一緒できれば幸いです。

——続いて、西田さんお願いします。

西田さん:
「自律」のために必要なのは、良質な問いです。「何のために生まれ、何をして生きていくのか」という、答えのない問いと向き合うこと。それが、世間の流行りに左右されない人生の方向性を見出すことに繋がり、自律を促していくのだと思います。

まずは、DIY HR®を推進することで、カインズのメンバーが自ら問いを立てられる環境を作っていきます。その先は、カインズメンバー、スポットワークのワーカーさんの区別なく、この価値観をどんどん広げていきたい。究極的には日本という国が自律するための一助となれたら嬉しいです。

壮大なことを語ってしまいましたが、そのくらい大きなビジョンを持って、今後ともお付き合いさせていただければと思います。

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(企画・取材・執筆:佐藤 史紹)

/media/タイミーラボ編集部
タイミーラボ編集部

タイミーラボは、株式会社タイミーによるオウンドメディアです。

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