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タイミーは、「働きたい時間」と「働いて欲しい時間」をマッチングするスポットワークのサービスとして、全国600万人の働き手の方にご利用いただいています。*
サービスを展開し始めて5年以上が経ち、うつ病などの精神障害からの回復にスポットワークが役立った、というお声をいただくようになりました。
人との関わりが閉ざされたコロナ禍以降、うつ病等の精神障害はますます問題視されるようになっています。精神的な不調から仕事に復帰する「リワーク」を専門とされている精神科医の五十嵐良雄さんと、弊社スポットワーク研究所所長の石橋孝宜との対談を通じて、「働く」とリワークの可能性について検討していきます。
※2023年11月時点
- 精神科医・産業医 メディカルケア大手町・メディカルケア虎ノ門理事長 東京リワーク研究所 所長
- 五十嵐良雄さん
1976年北海道大学医学部卒業。秩父中央病院院長などを経て2003年にメディカルケア虎ノ門開設。2005年、うつからの復職を支援する「リワークプログラム」を始め、2023年10月までに1,800人がこのプログラムを利用して職場復帰。2012年の調査では3年後の就労継続率はおよそ7割に及ぶ。2008年、うつなどで休職する人の職場復職支援を行う全国の医療機関向けの「うつ病リワーク研究会(現、日本うつ病リワーク協会)」を発足し代表世話人(現、理事長)に就任。日本産業精神保健学会理事他。
- 株式会社タイミー スポットワーク研究所 所長
- 石橋孝宜
中央大学卒業後、コンサル、ウェディング、飲食会社での現場・人事・事業経営者を経てタイミーに入社。入社当初より求職者・求人者双方の利便性を高めるべく、プロダクト設計に寄与。人事や現場の経験からユーザーが使いやすいサービス設計に寄与するとともに、コーポレート、事業それぞれの責任者を経てスポットワーク研究所所長となる。 新しい働き方であるスポットワークのエバンジェリストとして、より安心安全に働けるスポットワークの環境整備を担う。
「復職したい」と「復職できる」の不一致 再発の多い精神障害とそれにともなう休職の現状
—— 五十嵐さん、まずは自己紹介をお願いいたします。
五十嵐良雄(以下、五十嵐)さん:
大学を卒業後、10年以上大学病院の精神科で勤務し、その後別の病院で院長職、理事長職を経て、「メディカルケア虎ノ門」を開業しました。2005年にはリワークの専門プログラムを始め、2008年にはリワークを実施する医療機関を束ねる研究会を開始。2018年には研究会を一般社団法人化し、その理事長を務めています。
一般的に気分障害(うつ病や双極性障害)の療法として考えられがちな投薬ではなく、リハビリテーションによる治療を専門とし、2018年には「東京リワーク研究所」を立ち上げました。
スポットワーク研究所 所長 石橋孝宜(以下、石橋):
本日はよろしくお願いします。改めて、「リワーク」とは何かを詳しく教えていただけますか。
五十嵐さん:
リワークとは、気分障害(うつ病や双極性障害)や不安障害、適応障害、発達障害などといった精神疾患によって会社を休職している方が、職場に復帰できるように支援するプログラムのことです。リワークには、再休職の予防を目的に医療機関で実施される「医療リワーク」と、労働保険を財源として障がい者職業センターで実施される「職リハリワーク」。現場で就業していいかの見極めのために、企業や地方公共団体が独自に行っている「職場リワーク」、そしてNPO法人や株式会社が消費税を財源として就労移行支援を目的に実施する「福祉リワーク」の4種類があります。
私のクリニックでは、通所によって規則正しい生活リズムを整えたり、オフィスを模した空間で集団で過ごしたりといった体験を通じた医療リワークプログラムを提供していて、現在は80人以上が登録し、プログラムに参加されています。
石橋:
リワークと一口に言っても、様々な種類があるのですね。タイミーとリワークの可能性について検討を始める前に、現代社会における精神障害罹患の近況、また休職からの復職における課題を教えてください。
五十嵐さん:
厚生労働省が医療機関を対象に行っている調査によると、2000年頃から気分障害の患者数が増加しています。バブル崩壊後、「失われた30年」と呼ばれる経済停滞の時代が始まり、将来を見通せない不安から精神障害の罹患者が増えていったんです。2008年には患者数は100万人を超え、今でも増加の一途を辿っています。
※記事内で使用の各種図表・グラフは五十嵐様ご提供
労働省の研究機関が実施した調査の中で「復職後の再発の繰り返しの状況」を聞いたデータによると、調査対象の企業の半数以上で、メンタルヘルスの疾患による休職者の2割以上が再発を繰り返していると回答しました。身体疾患の再発の状況と比べると、メンタル疾患はかなり再発を繰り返しやすく、自死に至ってしまうこともあります。
石橋:
かなりの確率で休職を繰り返してしまうんですね。私自身、企業で人事を経験していたこともあり、復職からの再発、再休職については課題を感じていました。
五十嵐さん:
リワークプログラムを始める前は、私の患者さんにも復職後に再発をしてしまう人が多く、苦慮していました。復職からの再発が多い原因を探るべく、日本精神科病院協会と日本精神科診療所協会に所属する医療機関の精神科医に対して調査した結果が下記です。結果、約5割が「不十分な回復状態だが本人や家族からの強い復職の希望があり、対応が困る」と回答しました。本人が復職できる、したいと言ってるので診断書を書いてる主治医が多い実態が判明したのです。
主治医は患者の日常生活まで把握していないので、本人の復職の意思を無碍にできなかったんです。本人の自己申告の回復レベルと職場が求める回復レベルにはギャップがあるので、復職してもすぐに再発してしまうんですね。
このギャップを埋めるためには、6〜9ヵ月かけて患者さんのそばで伴走し、本当に復職していいタイミングを見極めることが不可欠だと考えました。当院は、復職はもちろん、復職後も再発や再休職させないことを目標にリワークプログラムを提供しています。
スポットワークが自己実現の機会に
石橋:
ここまでのお話で、医療リワークが、元の職場への復帰を前提としているということが分かりました。一方で、会社を精神障害で辞めてしまった後、他の職場で少しだけ働いてみることで仕事への適性を測り、そのまま長期就業する「別の職場への就業という形でのリワーク」が、スポットワークでは可能なのではないかと考えています。
例えば過去には、うつ病による引きこもりの状態から、タイミーでの就業を重ねる中で自信を得て、ついには就業先から「うちで働かないか」というオファーをもらい就労を開始されたワーカーさんがいらっしゃいました。その方は、「人と一緒に働く経験を通じて視野が広がり、たくさんの現場で働くことで世界の広さのようなものを感じた。殻に閉じこもっていた頃の自分の悩みがちっぽけなものだと思えるようになった。」と話されています。
▼タイミーでうつ病を克服した例
五十嵐さん:
勤めていた会社を辞めて他の会社に転職した結果うつ病が治った事例は、私の患者さんの中にも多数いらっしゃいますね。ある会社員の患者さんは釣りが趣味で、「自分が釣った魚をみんなに食べさせたい!」と会社を辞めて居酒屋を開業した途端、うつ病が治ったなんてこともありました。
石橋さんに例として挙げていただいた男性にとっては、短時間で働けるスポットワークが、働くことの「お試し」的体験になり、自己肯定感が低下している状態を乗り越えるためのバネのように機能したのではないでしょうか。
極端に言えば、「働く」に戻らずとも、そのまま芸術家や音楽家になったっていい。自己実現の機会になっていることそのものが、うつ病患者にとってはとても価値あることだと思います。
石橋:
スポットワークが自己実現の機会になりうる、というのはおっしゃるとおりだと思います。過去には、タイミーで100カ所以上の飲食店で働き研究を重ね、夢だった飲食店の開業を果たしたワーカーさんもいらっしゃいました。
スポットワークは、働くまでのハードルを、あらゆる面から下げられていると考えています。履歴書、面接不要で、働きたいと思ったときにすぐに働ける仕組みは、働くまでの過程をスムーズにしていますし、勤務後に事業者と働き手の方が相互に評価し合う機能は、「どんな職場かわからないから働きにくい」という心理的ハードルを下げている。
また、猫の手でも借りたいほどの人手不足に陥っている事業者にとっては、タイミーの働き手の方はまさに救世主的存在。貢献性を示しやすい簡単な業務においても、「あなたが来てくれなかったら仕事が回らなかったよ」といった、何気ないねぎらいの言葉をかけてもらうことが、その方の自己肯定感を高めるのではないでしょうか。
五十嵐さん:
お話を聞いて、スポットワークは精神障害からのリワーク以外にも、主婦の方の産休・育休からの復職という意味での(広義の)リワークも可能にするだろうなと思いました。
会社員の方の副業利用も多いとのことですが、私の患者さんの勤務先にも、副業を解禁した企業が増えてきたと実感しています。自己実現としての「働く」の概念しかり、副業しかり、働き方における多様化の一つの形なのかもしれませんね。
—— 今後のスポットワークの貢献可能性については、どのようにお考えでしょうか?
五十嵐さん:
最近、労働の世界において「ニューロダイバーシティ」という考え方が注目されています。ニューロダイバーシティとは、「ADHDや自閉症といった神経学的な少数派も尊重されるべきだ」との考えのもと、当事者の特性が輝く社会の実現を目指す動きのことです。ADHDや自閉症の方は、社会的な人との関わり等が苦手な代わりに、特定の能力がずば抜けていることがあるんですよ。
様々な仕事を経験できて適性を見極められるスポットワークは、今後ニューロダイバーシティを推進する上でも有効なのではないでしょうか。
石橋:
スポットワークは履歴書がない特性上、職歴や病歴が就業に影響せず誰にでも門戸が開かれています。タイミーは、飲食、物流、小売をメインにしながら、農業や介護、ホテルなどにも広がってきています。今後、あらゆる特性をお持ちの方が活躍できるような職場と出会う機会を提供できれば嬉しいです。
五十嵐さん:
以前、治療のために私の患者さんに地方で農業体験をしてもらった時、東京にいるときよりも病状が安定したんです。
本職と違う仕事に従事したこと、都会を離れて自然のリズムに則して過ごしたことが、治療になったのではないかと考えています。まずは短時間だけ、タイミーを通じて農業をしてみるというのも、精神障害の治療の観点からは良いかもしれないですね。
- タイミーラボ編集部
タイミーラボは、株式会社タイミーによるオウンドメディアです。
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