私のタイミー生活

100歳の現役薬剤師は、今日も元気に働きつづける。「できることは自分でやって、できないことは人に頼って」

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100歳の現役薬剤師は、今日も元気に働きつづける。「できることは自分でやって、できないことは人に頼って」

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2023年12月、コートを羽織れば少し汗ばむような小春日和。編集部はとある街角にある、小さな薬局を訪れました。店頭に掲げる暖簾には「ヒルマ薬局」の文字。比留間家が代々営んできた都内に数店舗展開するヒルマ薬局の小豆沢店です。

扉を開けると、歩行器に手を添えながらも背筋をしゃんと伸ばし、白衣を着こなした淑女が笑顔で出迎えてくれました。彼女は、この店を孫の康二郎さんと一緒に切り盛りしている、比留間榮子(ひるまえいこ)先生。ギネスブックにも認定されている、御年100歳で世界最高齢の現役薬剤師です。

1923年、東京に生まれた榮子先生は、若い頃から父親の営む薬局のお手伝いをしていました。お店を継いでから、70年以上にわたり人々の拠り所となる場所を守り続け、現在は週1日お店で働いています。榮子先生はどんなことを考えながら70年以上働いてきたのでしょうか。元気に働き続けるための考え方とは。お話を伺いました。

縁台のある店内。気軽に立ち寄れる「茶屋」のような薬局

気軽に立ち寄れる「茶屋」のような薬局




——榮子先生、今日はよろしくお願いいたします。

あまり難しいことは話せないから、お手柔らかにお願いしますね。

——まずは「ヒルマ薬局」の成り立ちについて教えていただけますか?

ヒルマ薬局は父が開業したお店で、私が生まれた頃にはすでにありました。学校を卒業して一人前になってから、私は父と一緒に働き始めたの。ここは板橋だけれど、1店舗目のお店は池袋に。昔は今のように週休2日もなくて、月曜日〜土曜日までほぼ毎日、従業員の皆さんと一緒に店頭に立っていました。

ただ、当時は戦争の真っ只中。昭和20年(1945年)になると、東京にも爆弾が落とされるようになって、街はまる焼けになってしまったの。お店の荷物を全部片付けて、池袋駅からみんなで父の実家があった長野県に疎開しました。

夏には終戦を迎えてね。その3日後には「いつまでも山の中にいてもしょうがない」と父と2人で東京に戻り、お店を再開することに。何かできることがないかって考えていました。

何かできることがないか





——東京はどんな様子でしたか?

びっしり建っていた家が跡形もなくなくなっていて、池袋から海が見えました。後から分かったことだけど、家の残骸はそのあたりに住む人たちがすぐに片付けてくれたみたい。私が行った時には、木の枝1本すら落ちてないくらいに綺麗になっていたの。

そこから東京の復興の早さはすごかった。何年も経たないうちに、ビルがびっしり建ち並びました。土地の所有権もなにもなくなっていたから、早いもの順だったのでしょうけど、とにかく人々のたくましさに感動しました。

——その頃のヒルマ薬局について教えてください。

当時は今みたいに病院がなくてね。大きな病院はほとんど壊れてしまったし、個人病院みたいなものはまったくなかったの。だから、風邪を引いたり微熱があったりすると、みんな薬局に来てくれました。

父が症状を聞いて、薬びんといって何も書いてない瓶に解熱剤を入れて処方するんですよ。「3日間飲んだら、様子を知らせに来て」って。それで3日後には患者さんが「よくなった」「治らない」と伝えに来てくれる。症状がひどければ病院にいくことを勧めるけれど、大体は父の薬で事足りていました。

今みたいにまとめて2週間分くらいの薬を出すわけではないから、何度も患者さんがお店に訪れてくれて、すぐに仲良くなっちゃうの。「前を通ったから寄ってくわ」って気軽に来てくれる人もたくさんいましたよ。お店の中に座り込んで、なんやかんやと話すだけの方もね(笑)。

「峠の茶屋」みたいに、気軽に立ち寄ってちょっと休める。ヒルマ薬局はそんな場所なの。今でも、お客さんがそこ(店内の縁台)に座ってくれてね、他愛もないお話をするのが好きなのよ。

他愛もないお話をするのが好き










待ってくれている人がいるから、もう少し頑張りたい

——現在、先生はどんな働き方をしているんですか?

週1日、木曜日だけお店に出ています。数年前に足を骨折してしまって。それまでは毎日立っていたけれど、今はゆっくり。池袋に息子たちがやっている薬局があって、そこの上に住んでいるんだけど、ここ小豆沢店には知り合いの方も多いから、ちょっと遠くても通っているの。

お店に立つ日は、朝から夜まで1日働いています。まあ、働いているといっても、お店に来て腰掛けて話している時間がほとんどですから、まったく苦にならないんですよ。

——今も1日中働かれているんですね。元気でいられる秘訣は何かあるんでしょうか?

あまり語れるようなことはないですよ。でも、骨折する前はよく旅行に出かけていました。国内外あちこち飛び回ってね。知らない場所にいくワクワクが元気の源になっていたのかもしれません。ただ、足を骨折してからは行けてなくて。リハビリを4年くらい続けて、ようやく歩行器で歩けるようになりましたから、もう少し経ったら杖で歩けるかもしれない。そうしたら旅行にまた行きたいです。

あとは、やっぱり働き続けるのがいいのかもしれません。いろんな方とお話ししていると刺激ももらえるし、知識も身についちゃう。若い人からもいろんな話を聞いて、学びになることも多いから、忘れたくないことはメモに書いたりしていますよ。だから、私は結構記憶力がいいんです。元気の秘訣かわからないけれど、働くことは脳にとってもいいことなのよ、きっと

働くことは脳にとってもいいこと





——どこかのタイミングで引退を考えたことはありますか?

そろそろかなと思ったことも何回もありました。お店にいても邪魔になってしまうかもしれないじゃない。でも、それを孫の康二郎に言ったら「まだ続けなよ」って言ってもらえたんです。

患者さんも「今日も先生に会えてよかった」なんて言ってくれるのよ。やっぱり、待ってくれている人がいると思うと、もう少し頑張ろうと思えます。役に立っているのかはわからないけれど、できればもうちょっと続けさせてもらおうと思ってるの。

身体だけではなく、心にも処方箋を

——お仕事をする上で大切にされていることはありますか?

疲れている様子を見せないことかしら。向こうは体調が悪いなか来てくださるので、どんな時でも気持ちよくお話ししたいの。

うちには、たとえば、ご主人が亡くなっちゃって話す相手がいないと寂しい思いをしている方なんかも来る。「誰とも話せなくて、喋る言葉を忘れちゃいそう」とか言うのよ。そんな方には「仏壇に向かって、お父さんただいま!ご飯食べよう!って言えばいいじゃない」とか、バカみたいな話をしながらね、慰めてあげるの。身体だけではなく、心にも処方箋を出してあげたいと思っています。

心にも処方箋を出してあげたい





そんなことしてるから、お話ししている時間が長くなってね。なかには1時間くらい縁台に腰掛けて話していく方もいます。お水とお菓子を出してあげて「それ食べてゆっくりしていって」なんて伝えると、後日、お花やお菓子を持ってきてくれたりするの。そういう患者さんとの関係を大切にしていきたいですね。

信念を持ち、ひとつの仕事を極めることの大切さ

——先生のように長く元気に働きたい人は多くいると思います。先生から見て、シニア・ミドル世代以降の人生はどんなものであるといいと思いますか?

大きなことじゃなくてもいいから、自分なりの信念を持って何かに取り組んでいる人は素敵だと思います。60歳くらいを定年として区切る方もいるだろうけど、私のように100歳まで働くとしたらあと40年もあるのよ(笑)。それだけ時間があれば、どんなことだってできるはず。体力は落ちてくるかもしれないけど、自分が信念を持てるものに取り組んでいる人は、気持ちが元気だと思います。

60歳なんて、私にとっては娘みたいなものですよ。私が若い頃の60歳といったら立派なおじいちゃんおばあちゃんだったけど、今の人たちは、服装も考え方もすごく若い。価値観も柔らかいから、話していてすごく接しやすいの。だから、「もう何歳だから」なんてあまり考えないで、自分がやりたいことをやっていくのがいいと思います。

自分がやりたいことをやっていくのがいい



   パソコンやスマートフォンの使い方も学んでいる榮子先生

——逆に若い世代の方々に対して、人生のアドバイスをするとしたら?

特にアドバイスできることなんてありませんよ。自分はどうしたらいいのか、今の若い子たちはよく考えているもの。全員がそうではないかもしれませんが、お店に来る方と話していていつも「大したもんだ」と驚いています。

ただ、「ひとつの仕事を極める」ことの良さは伝えられるかしら。よくお店にくる方に「先輩や同僚が気に入らないからという理由で、簡単に仕事を辞めてはいけないよ」と言うの。石の上にも3年という言葉があるけれど、3年くらい続けると、仕事がよくわかってくるし、周りの人との関係性もできてくる。

大変な時期もあるでしょうけどね。それを乗り越えたら「辛抱してやってきたから大丈夫だ」って自信が持てるようになる。いろんな仕事ができる時代だから、いろんな経験をしてみたらいいと思うけれど、「すぐ辞められるから」なんて考えずに、じっくり取り組んでみるといいと思いますよ。

じっくり取り組んでみるといい





——どれかひとつに絞らなくていいけれど、やるなら極めるつもりで取り組もうということですね。

偉そうに私から何かを教えてあげられることはないですよ。私のほうが教えて欲しいことがたくさんあるもの。今の人たちは、本当に色々と考えて頑張っているから、学ばされることが多くあります。

この年齢になると、自分だけでできることは減っていくの。皆さんから助けてもらったり、教えてもらったりすることが増える。でも、そうやって人を頼ることは大事だと思います。自分で何でもできるなら大したものだけど、それはなかなか難しいから。人に頼りながら、やりたいことをやるほうが、うまくいくでしょ

でも、自分でもできることは自分でやらないとね。楽をしようとしたら、どんどんできることが減るし、元気もなくなっていくから。だから私はいま、「もう少しみんなに迷惑をかけずに長生きしよう」という目標を掲げているの。できることは自分でやって、できないことは人に頼って、これからも現役でいたいですね。

できることは自分でやって、できないことは人に頼って





榮子先生の人生や仕事の考え方にもっと触れたい方は、『時間はくすり やさしくなれる処方箋』(サンマーク出版)をご覧ください。

(写真:村井香)

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/media/タイミーラボ編集部
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